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住宅ローンの固定金利が上がっているそうですが、変動金利も上がるのでしょうか。

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 最近、こんな話題を耳にすること増えてませんか?

 「住宅ローンの金利が上がっている」

 こんなことを聞くと、我が家の住宅ローンはどうなるんだろうと思われる方もいるかもしれません。

 今回は住宅ローンの金利について基本的な考え方をお伝えしていきたいと思います。

 

 まず初めにこの記事をお読みください。

www.nikkei.com

 

 これ、結構重要といえば重要な記事なんですが、そこまで重要かといえば重要でなかったりします。

 要はこの記事で何を言っているかというと、

 固定金利の住宅ローン金利が上がってきたから、変動金利の住宅ローン金利も上がるかもよ?

ということを言っています。

 なんで?ってことを解説しているんですが、その理由として、

 資源高や米利上げなどを背景にした円安が継続すれば国内の物価上昇圧力は続き、住宅ローンの金利上昇が変動型にも広がる可能性がある

ということをあげています。

 「国内の物価が上がるから住宅ローンの金利も上がっていくかもしれない」って言われても、いまいちピンと来ないかもしれません。

 これについて少し解説すると、アメリカ時間の3/16にアメリカの中央銀行に当たるFRB(Federal Reserve Board:連邦準備制度理事会)が政策金利であるFF(Federal Funds)レートを0.25%~0.50%のレンジに引き上げました。

 これはアメリカの金融当局が金融政策を「金融緩和」から「金融引き締め」に変更したからなんですが、要は、コロナ禍で急激に落ち込んでしまったアメリカ経済を回復させるために行った金融緩和政策を止め、今後、景気が過熱する恐れがあるので利上げを行い、物価の上昇を抑えていきますという政策に転換したという意味なんです。

 ジャブジャブと市中に流し込んでいたお金を引き上げるわけですから、世の中に回っていくお金の量が減っていきます。こうすることで景気の過熱感を少しずつ和らげていこうという作戦なんですね。

 結果としてアメリカでは金利が上がっていくんですが、それではなぜ、アメリカのことなのに日本でも金利が上がるの?というと、日本でも物価の上昇圧力が高まってきているからなんです。

 物価が上昇する原因は、コロナ禍によるサプライチェーンの逼迫が主なものですが、これに加えロシアがウクライナに侵攻したせいで原油価格などが余計に上がってしまいました。

 このような背景がある中でアメリカが利上げを行うようになったため、アメリカと日本との間で金利に差が出てきました。これを「日米金利差」といいますが、アメリカの方が日本の金利よりも高いわけですから、為替の世界ではドル高・円安になります。円安になると、日本にとっては輸入物価が高くなるので、これが物価の上昇という形で私たちの暮らしに影響を与えていくんですね。

 で、この状況を抑える必要があるんですが、そのために日銀はステルステーパリングといって、事実上、金融緩和政策から金融引き締め政策にこっそりと静かに政策転換を図っています。

 この影響で日本の10年物国債利回りがかつてと比べ上昇し、金利の上昇につながっているんです。

 だから、日本経済新聞のこの記事は「円安が継続すれば住宅ローンの金利が上がるかもしれない」と警鐘を鳴らしてくれてるんですね。

 

 とはいえ、じゃあ、本当に住宅ローンの金利上がるの?というと、実際に大手銀行が3月に住宅ローンの固定金利を引き上げにかかったので上がったといえば上がりました。

 問題は住宅ローンの変動金利なんですよね。

 住宅ローンの変動金利は「短期プライムレート(新短期プライムレートと呼ぶこともある)」をもとに各銀行が決めているので、これが上がってくると必然的に住宅ローンの変動金利も上がっていきます。

 ただ、短期プライムレート(通称「短プラ」)は無担保コール翌日物レートなどの短期金利の指標をもとにして決まるため、大本をたどるとこのような短期金利が上がれば短プラも上がり、その結果、住宅ローンの変動金利が上がっていくという経路をたどります。

 それでは、無担保コール翌日物レートはどれぐらいの水準にあるかというと▲0.1%です。

 日本の金融政策はステルステーパリングを行っているとはいえ依然として金融緩和状態にあります。具体的には短期金利を▲0.1%に抑え、長期金利を▲0.25%~0.25%の範囲内でコントロールするようにしています。

 特に、日銀は先日、長期金利(ここでは10年物国債利回りのこと)の誘導目標を先ほどの▲0.25%~0.25%の範囲内にしたばかりで、方法としては国債の買いオペという形で執行しています。実際、日本の10年物国債利回りが0.25%を超えそうになった段階で国債を買い入れ、強制的に長期金利を引き下げにかかりました。

 その結果、日本の10年物国債利回りは3/19(土)時点で0.213%となっています。

 

〇日本の10年物国債利回り(日足)

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※TradingView提供

 

 このような日銀の金融政策の現状を踏まえると、日経新聞がいうような金利の上昇は、条件として、日銀が本格的に金融緩和を解除し、金融引き締め政策に転じることが必要になってくると思います。

 でも、固定金利上がってるじゃん?と思うかもしれませんが、これは長期金利がそれまでと比べて上がったからで、何も固定金利が上がったからといって変動金利がすぐさま上がるということではないんです。なぜならば、無担保コール翌日物レートが▲0.1%で貼り付かされているので。

 こういうことを考えれると、日銀は円安になってもいいから金利の上昇を本気で抑えにかかっていることがわかります。

 ただ、気にしておく必要があるのは、日経新聞の記事でも言及されていたように、来年の日銀総裁人事がどうなるかなんです。

 実際、にわかに日銀に対して政策変更を求める声が高まってきています。なぜなのかというと、アベノミクス以来、史上稀に見る大規模金融緩和を日銀が実施したにもかからわず、実体経済、例えば私たちの暮らしが豊かになったのかといえばそうでもないですし、企業の成長が飛躍的に良くなったのかといえばそうでもないというわけで、金融緩和政策の効果に対して疑問が投げかけられているんですね。

 その成否はさておき、来年の日銀総裁人事で仮に黒田さんが辞め、いわゆるリフレ派でない人が総裁の座に就くと金融政策が変更される可能性があるため、日経新聞の記事ではここに問題があると言っているわけです。

 最悪なことは、金融引き締め政策に加え緊縮財政路線への回帰なんです。

 令和4年度税制改正大綱では住宅ローン控除制度の改正が盛り込まれています。これから住宅ローンを借りる人は、住宅ローン控除の率が基本的にこれまでの1.0%から0.7%に引き下げられるため、この点だけ見ても緊縮財政路線への回帰と言えなくはありません。

 そういった増税バイアスと合わせて考えると、日銀の総裁が代わって政策が変更された場合、変動金利が上がるかもしれないという妥当性はないとは言い切れません。

 

 といいつつも、株式市場や債券市場などのマーケットでは、まだ可能性は必ずしも高いとはいえませんが、今後、世界経済がリセッション(景気後退)するかもしれないということが言われるようになりました。要は景気が悪くなるかもということです。

 今、言われているのは、仮にそうなった場合、おそらく2024年辺りにアメリカの金融当局は再び金融緩和政策を実行する可能性があるとの論調もあります。

 個人的にはここに注目しているんですが、アメリカの長短金利差が縮まってきているため、逆イールドという現象が起こると、その後、しばらくして景気後退に突入する可能性があります。

 全てはアメリカの物価次第という側面がありますが、景気が減速してくると必然的に物価が下がっていくため、行き過ぎて物価が下がりだすと、今度はそれを防ぐために金融緩和政策を執るようになるかもしれないということなんですね。

 中央銀行の役割は「物価」と「雇用」の安定を図ることにあります。アメリカは、日本もそうなんですが、物価の誘導目標を2.0%にしているため、これを上回る水準では金融引き締め、下回る水準では金融緩和を行っていこうとします。

 このように考えると、日本では住宅ローン金利を決定づける短プラをすぐさま引き上げようとすることには違和感を感じます。

 なので、日本の住宅ローンの変動金利は余程のことがない限り依然として上がりにくいだろうと推察できます。

 

 住宅ローンは銀行の提供する金融商品です。ということは、金融や経済の状況如何で変化するわけですが、こういうのって実際、知らないとよくわからないですよね。

 知れば知ったで、案外、奥が深かったりします。

 というわけで、何となく理解できたでしょうか。

 住宅ローンの変動金利が上がると考えるのは早計というのが結論でした。

 今回はこの辺で。

 

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