家計教師:第1回講義「FPに相談する前に振り返っていただきたいこと」
家計教師、第1回講義を始めます。第1回から第4回までの講義は位置づけとしては必修とさせていただきます。
第1回講義は「FPに相談する前に振り返っていただきたいこと」です。
FP(ファイナンシャル・プランナー)事務所を開業して15年目に入りました。過去を振り返ると今のようにFPに相談しようという風潮はほとんどなく、時代を経るにつれ暮らしやお金に関するニーズが高まってきたように思います。
そんな中、個人的に感じていたことはご相談者の傾向が昔と違うという点です。
以前と比べ相談内容に「ん?そこ気にする?」というケースが目立ち始めたように感じています。
確かに「FPに相談したい」と希望する方が増えたため、大なり小なり変な相談が増えるのはなんら不思議ではないんですが、それにしても「それ、気にする意味ある?」という案件もちらほら出てきており、なんだか変な世の中になっているなと強く感じるようになりました。
例えば、こんな相談です。
「住宅ローンを組んでいます。iDeCoを始めると住宅ローン控除の効果が薄れると聞きましたが、我が家の場合はどうでしょうか」
こういうことを聞かれると、すぐさま「なるほどね」とFPならわかると思いますが、要は所得税の話で、住宅ローン控除の適用を受けながらiDeCoを始めるのは得なのか、損なのかという質問です。
正直、そんなの「どっちでもいい」、これが答えです。
なぜ、この答えになるかというと簡単です。
住宅ローン控除の制度とiDeCoという制度はそもそもで目的が違うからです。
住宅ローン控除制度は、正式には住宅借入金等特別控除といって、その目的は国の住宅政策として、新築・中古に限らずマイホームを購入、建築、改修する場合、家計負担を考慮し所得税を軽減してくれる制度です。
一方、iDeCoは個人型確定拠出年金制度ですが、その目的は老後の生活資金を貯める、もしくは運用する場合、掛金に対しては全額所得控除、運用益については運用期間中全額非課税、そして年金を受け取るタイミングでは年金に対し控除項目を適用するといった所得税の優遇制度となっています。
このようなことから、そもそも制度の目的が違うため、「iDeCoを始めると住宅ローン控除から得られる効果が下がる、だから損!」のような考え方は無意味な心配になるわけです。
確かに、計算をすると、iDeCoを利用すると掛金が所得控除としてその年の収入から差し引かれるため、結果的に所得税の金額が減ることとなり、住宅ローン控除の効果がiDeCoに加入する前と比べると下がってしまいます。
なので、それはそれで正しいんですが、じゃあ、「老後の生活資金を準備するためにiDeCoはやらないの?」と言われれば、老後のお金は貯めたいわけですから始めた方が良いですよね。
長い目で見たら、結果如何ではありますが、iDeCoをやった方が得だったりするわけです。
つまり、何が言いたいかというと、この内容を気にするということは、深層心理で「損得勘定が強い」ことを意味していることから、こういった相談をする前に「なんで自分はこれが気になるんだろう」と自問自答していただきたいわけです。
損得勘定が強いから細かいことに目が行き過ぎて本質を見誤るという事例なんですね。
また、こんな相談もあります。
「離婚を考えています。離婚する場合、夫の将来の生活と自分の将来の生活が心配なので暮らしの面でやっていけるかどうか相談に乗ってください」
これについても「ん?どういうこと?」と疑問が浮かびました。
「離婚するんですよね。でも、相手のことをお互いに考えてって、それじゃ、無理して離婚しなくてもいいじゃん」って内心思いました。
確かに、お互いの想いというのがあるので離婚とお金の話は別なんでしょうけど、お金の心配が本質的な問題ではなくて、お互いの人生に対する考え方が本質的には問題になっているということに対してはスルーされているように映りました。
実務的には対応したんですが、将来の暮らしに対してある程度の見通しが立ったところで、それぞれの人生が幸せになるかどうかは正直わかりません。
なので、こういうことを相談する相手は、本来、自分たちの家族とか、友達とか、そういった周りの人たち、つまり、身近にある小さな大切な共同体の中で解決していく問題のように思います。
確かに身近な人に相談したら反対されるとかそういうことも考えられますが、言われたくないことを言ってくれるのが家族や友人なわけで、それを避けるようにお金の話に問題をすり替え、FPに相談して安心感を得るというのはなんだか本末転倒のように思いました。
これらの相談内容について共通するのは「深層心理」です。自分の、もしくは、自分たちの内面上の課題を整理せずに、それらをあたかもお金の、経済的な問題として解決しようとする脆弱な感受性です。
FPに相談しにくる方がみんなそうだという訳ではありません。ただ、傾向として行き過ぎた損得勘定だとか、過度に傷つきたくないとか、必要以上に安心していたいとか、そういった行き過ぎたネガティブな深層心理に基づき相談を依頼するケースが昔と比べて増えているのは事実です。
このようなことから、第1回講義としては、FPに相談する前に自分が相談しようとしていることが本質的にFPに相談することとしてふさわしいことなのかを一度振り返った上で相談した方が良いということをお伝えしたいと思います。
具体的には、
◦自分は何を相談したいと考えているのか
◦そして、心理的になぜ、そのような相談をしたいと思っているのか
です。
特に、「心理的になぜ、そのような相談をしたいと思っているのか」が重要なんですが、往々にして「ん?」と思うようなことは的外れな相談であるケースが多いように思います。
何を相談したいかがわからないという意見もあるかもしれませんが、そういう場合は、頭の中を、心の中を整理して、自分を一度振り返ってみてください。
また、どう整理したらいいかがわからないという場合は、近しい人に雑談程度で話を聞いてもらいながら整理するという方法もあるでしょう。
話をする相手がいないという場合は、仕事を度外視してもいいので、私で良ければ相談相手にはなります。別に苦ではないですし、実際にそういう方はいることはいるので。
とにかく、相談料金を払ってでもFP事務所に相談するわけですから、特にお金のことで相談するわけですから、本当に相談したいことは何かをもう少し真剣に心理面も含めて考えていただき、その上で相談を依頼する方がお金の使い方としては効果的かと思います。
FPとして生業を築いている身としてこのようなことを申し上げるのは大変失礼なことと承知していますが、あえて第1回講義でこれについて伝えさせていただきました。
次回、第2回講義(必修)は「人生の戦略概念」についてお伝えしていきたいと思います。