金融緩和政策の歴史を紐解いていたら、大げさですが、結局、日本経済は無力化することがわかりました。
今日の日経平均株価指数。
前日比383.60円高の30467.75円で取引を終えています。
注目は、このまま一気に進むのか、それともいったん軽めの調整が起こり、再び値を上げていくのか。
テクニカル的には3万円の大台を超えてきているため、32000円の水準が視野に入ってきていますが、その場合の波形シナリオをこんな感じで考えています。
さて、今日は、シナリオ分析はチャートをご覧いただくことに譲りますが、日銀の金融政策のまとめをしておきたいと思います。
現状、日銀がどんな方針で金融政策を実行しているかという内容です。
1994年、日経平均株価指数においてバブルが弾けた約4年後、金利が自由化されました。
日銀によると、この年から金融緩和政策が始まっているらしいんですが、要は、中央銀行である日銀が金利を引き下げることで日本に回るお金の量を調整し始めたのがこの年という意味です。
そして翌年の1995年から短期市場金利の誘導するためのオペレーション、いわゆる公開市場操作を初めて実施します。
話が難しくなるので、ざっといきますが、短期市場金利って何?って思いますよね。
簡単にいうと、目先のお金を貸したり、借りたりする場合に適用される金利です。
例えば、借入期間が1年のものに適用される金利と思ってください。
この目安になるのが無担保コールレート(オーバーナイト物)っていうんですけど、よく無担保コールって呼ばれます。
これが短期金利の指標で、今は▲0.1%に維持されています。
1995年当初はこれをいじるだけでバブル崩壊という難を乗り越えようとしていたわけです。
この意味は、日銀としては「目先に必要な資金の手当てをしておけばいいっしょ」、「これで企業の資金繰りは問題ないっしょ」ぐらいに思ってたんでしょうけど、結果、日本経済は沈没していきました。
1999年、ゼロ金利政策が実施されます。
この年からこの言葉が表に出始めたんですね。
この段階でも、政策金利である無担保コールを下げるオペレーションをしていたわけですが、それでも景気がなかなか上向きません。
で、2001年、初めて「量的緩和政策」というものが始まりました。
ここで量的緩和という今では当たり前になっている言葉が出現します。
さっきの短期金利を引き下げるっていうのは「質的」緩和って表現されるんですけど、2001年に量的緩和政策が始まるまでは質的緩和1本だったんですね。
質的緩和に対し量的緩和っていうのは、金利をいじるんじゃなく、お金の量を直接いじるっていう意味です。
その時に打ち出されたのが「日銀の当座預金残高」をいじることです。
これがまた難しいんですけど、簡単にいうと、当座預金なので日銀が持つ単なる決済口座なんですが、銀行などの金融機関はこの口座に一定のお金を預けてるんですね。
この制度を「準備預金制度」っていうんですけど、この制度によって金融機関が日銀の当座預金に預け入れるお金の金額が決まっているんです。例えるなら、金融機関は日銀にお金という人質を取られているんですが、この金額を減らしてあげるよっていうのが2001年に始まった量的緩和の趣旨です。
ここでちょっとまとめますね。
質的緩和)
政策金利を下げること
量的緩和)
金融機関が日銀に預けるお金を減らすこと
金融緩和政策を知るには、まず、この2軸を知らないと、今、何をやっているかがわからなくなります。
質的・量的緩和は、いずれも、景気を良くするために、企業や国民により多くのお金を使ってもらいやすい「金融環境」を整えるための方法です。
ちょっと話を脱線させますが、「金融環境」という言葉を使いました。
日銀の役割って何なのかというと、金融の環境を整えることなんです。
どんな金融の環境なのかっていうと、銀行などの金融機関が企業や家計にお金を使ってもらいやすくするための環境です。
なので、日銀が経済政策を100%担っているってわけではなくて、あくまでも、日銀は、物価と雇用を安定させるために、景気が悪くなった場合に、お金の循環が途切れないように金融機関を支援するっていうのが任務なんです。
だから、金融環境を整えるってことなんですね。
話を元に戻しまして、2010年、包括的な金融緩和政策ということで、また方法論を変えました。
変えたというよりは、付け加えたって内容なんですけど、この頃は、リーマンショック後の景気の減速が足元でひどくなっている時ですよね。
それまでの無担保コールレートを0.0%~0.1%程度で推移するように促すとしました。
要は、質的緩和の継続ですよね。ゼロ金利政策の維持です。
で、これに付け加えたのが、「資産買入等の基金」の創設です。
それまでは、量的緩和の方針として、日銀の当座預金の額をを減らしますよという内容でしたが、これにプラスして、資産の買入れが追加されました。
今では当たり前のように実行されていますが、リーマンショック後にスタートしたやり方なんです。
では、資産って何でしょうね。
長期国債、短期国債、CP、CPっていうのはコマーシャル・ペーパーの略なんですが、簡単にいうと約束手形です。そして、社債、ETF、J‐REIT・・・。
今、まさに、こういった資産を大量に買い入れてますけど、この年からこのような方法が開始されました。
すごいですよね。
質的緩和は政策金利をゼロ%に誘導するゼロ金利政策、量的緩和は銀行が日銀に預けるお金の量を減らしてあげて、なおかつ、マーケットで取引されているいろんな金融商品を日銀が大量に買い付ける。
もう、ここまでやれば景気回復するよねって思います。
でも、実際はそうはなりませんでした。
実体経済はほとんど回復せず、デフレから脱却することは未だに達成できていません。ただ、株式市場が乱舞しただけの結果に終わっています。
でも、当初はこれが結構な勝負だったんです。
今までにないことを実験的にやったわけなので、だからこそ、史上最大の経済実験なんて言われてましたしね。
で、2013年、これらの金融緩和政策がまた変更されました。
何?
「マネタリーベース」をいじろうではないか。
また新しい言葉が出てきましたが、マネタリーベースっていうのは、いわゆる、お金のそのものです。
もうちょっと具体的にいうと、札と貨幣、それに加え日銀の当座預金の3つを指します。
これもすごいんですが、それまでは、銀行が日銀の当座預金に預ける金額を少なくしてあげるというのが1つの方法だったんですが、これに札と貨幣の量を増やしますと言ったわけです。
素晴らしい。
これでいよいよ本腰かっ!と多くの投資家は思ったと思いますが、アベノミクスの第1の矢の意味はこれだったんですね。
案の定、株価は上昇に転じていきました。
日銀の当座預金の準備高も減らしてあげた。
資産の買入れも始めた。
マネタリーベースの増額により、お金を刷った。
でも、デフレから抜け出せない・・・。
なんでだ~とか、そんな空気が広がってましたが、2014年4月に消費税率を5%から8%に引き上げましたやん。
デフレから脱却できるわけありません。
個人的には消費税率を引き上げたので安倍政権をあまり支持しなくなったのがここら辺からです。
そして、2016年、これでもかっ!というぐらいにいきなり出てきたのが「マイナス金利政策」です。
これはすごかったですよね。
「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」なんてタイトルになってますけど、なんのこっちゃない、短期金利を▲0.1%に誘導し、かつ、10年物国債の利回りをゼロ%に張り付けさせるという方法です。
なんせ、短期金利はマイナスなんですもん、もう借りなきゃ損なんです。
実際は、銀行でマイナス金利で貸し付けることはないですけど、メッセージとしては、銀行にお金を預けるなと言っているのに等しいわけです。
また、長期金利っていうのは10年物国債の利回りのことなんですが、期間の長い金利をさらに下げることで企業の設備投資やマイホームの購入をよりしやすくする環境を整えました。
質的緩和でいうと、短期金利▲0.1%、長期金利ほぼゼロ%、量的緩和はお金を刷って、日銀の当座預金の枠を減らしてあげて、いろんな資産の買入れまでして、そこで、国はとうとう消費税率を10%に引き上げました。
10%がGDP(国内総生産)に与えたダメージは大きかったですが、マイナス金利政策をしてまでデフレ脱却したかった日銀の努力が、消費税のさらなる増税で一蹴された形です。
そこまでやったのに・・・。
残念。
と思っていた矢先に来たのがコロナショックです。
2020年4月、日銀は金融政策決定会合において、コロナ版の金融緩和政策に取り組み始めます。
この時のタイトルが「金融緩和の強化」。
突っ込みが入りますが、いっつも、今まで強化してたじゃ~ん。
この時の特徴はイールドカーブ全体を低位で安定させるとなっています。
また新しい言葉が出てきましたが、この意味は、期間の短めの金利(短期金利)と期間の長めの金利(長期金利)の推移全体を低水準に抑えるということです。
今までは短期金利は▲0.1%ですよ、そして10年物国債の利回りである長期金利はほぼゼロ%水準にしますよということで、いわば点と点の考え方だったんですね。
金利は必ずしもこの2つだけではないので、いくつもある期間に適用される金利をすべて低くしますっていうのが「イールドカーブ・コントロール」の考え方です。
これに加えて特徴的なのは資産買入れの強化です。
CPも、社債も、国債も、ETFも、J-REITも、年間12兆円買います。そして、毎年の買入れ残高の上限を1800億円に引き上げますとしました。
投資家にとって重要なのはこの2つなんですが、全ての金利が低水準で維持されるので、企業の資金調達には有利ですよね。このため、企業にとっては利益率の強化につながります。
一方、日銀が買い取ってくれる投資信託がかなりの金額に上るので、特に株式市場では株価はそう下がらないと判断する投資家は多いのではないでしょうか。
金利を目いっぱい下げて、資産も買い取る。
税金使って大盤振る舞いして、増税して巻き上げる。
資金の供給と回収のメカニズムとしてはありなんですが、デフレから脱却できてないのに回収しちゃってるわけで、さらにまた増税論も浮上してるわけでしょ。
日銀を庇うつもりはありませんが、このやり方してても、たぶん、同じことをひたすら繰り返すだけのような気がします。
きっと日銀はわかっています。
日銀がいくら頑張っても、増税するんなら、その効果は打ち消されるってことを。
そして、株式市場が実体経済とはかなりかけ離れて上昇していることを。
だから、金融緩和の出口戦略についての報道が見え隠れしているわけですが、結局、今やっていることからすれば、そのアナウンス効果はまだまだ薄いですよね。
日経平均株価指数は際限なく上がるのか。
それとも、金融政策によって、この過熱感がいつか掻き消されるのか。
〇日経平均株価指数
今回は、金融緩和の歴史をひも解いてきましたが、今日書いたことは、日銀でアップされている金融緩和政策の変遷をもとに口語でまとめたものです。
こうやって見ていくと、とっくのとうに打つ手なしの状況に陥っていたのがわかりますが、もう、あとに戻れないんじゃないですかね。
おそらく、増税や社会保障制度に対する不信感によって、このスパイラルから抜け出せないような気がします。
ということは、長い目で見て株式市場は右肩上がりなのか?と思ってしまいますが、アメリカ市場が崩れると、日本の株式市場も崩れるわけで、日本に限って言うならば、おそらく、資産運用はもう理屈では語ることができない異次元の世界に存在していることがよくわかりました。
結局、バブル崩壊の失敗が株式市場と実体経済の極端な乖離を生み、もはや金融政策だけではそこから抜け出せないという現実を、今、まさに見せつけられているような面持ちです。
このまま行くと、おそらく、この国の実体経済は、大げさですが無力化するでしょう。
その分岐点は、株式市場のバブルが崩壊した1989年の年末にあったんだろうと思います。