株式市場大幅高! 今回の株価上昇劇は典型的な「市場は誤る」なのか。
昨晩の米国株式市場は大幅に上昇しました。
「こんなに下落が続いているのになんで?」と思った方も多いかもしれませんし、「いよいよ反転上昇か!」なんて期待を持った方もいるように思います。
株価上昇の原因が「ウクライナ紛争の停戦期待」と「原油価格の下落」と報道されていますが、個人的には「ん~、本当にそうなの?」なんて思ってしまいました。
今回の株価上昇が今後続くかどうかも含め、昨晩の株価上昇について自分なりに考察していきたいと思います。
昨晩の米株式市場の動きはこんな感じでした。
ダウも、S&P500も、ナスダックも大幅高です。
注目は、米10年物国債利回りとWTI原油ですが、前者は1.951%まで上昇、一方、後者は1バレル=110ドルで現在推移しています。金利の上昇と原油価格の下落です。
そして、ここ最近100.0に近づいていたドルインデックスが98.0にまで下がっています。
金利と原油、ドル(為替)のうち、まず「ん?おかしいな」と思うのが米10年物国債利回りが上昇している点です。金利の上昇ですね。
国債の利回りが上昇するということは国債価格が下落しているということなので、少なくともインフレに反応しているのがわかります。
今年の1月以来の米国株の下げは主に、FRBによる利上げ、つまり、アメリカがインフレを退治するために金融政策を金融引き締めに変更していく流れの中で起こってきました。
なので、国債の利回りが上昇するのはインフレ(退治)期待の現れではあるんですが、ウクライナ情勢の悪化を受けて、金融・経済政策が発動され、ロシアのルーブルが下落し、ロシア国債のデフォルト懸念が増大していることで、それがヨーロッパに飛び火するかもしれないという思惑から国債が売られているという側面もあります。
中・長期的な流れで見ると、国債の利回りが上昇する要因は、むしろ、後者の方が大きいんですが、株価はインフレ(退治)期待に振れ、リセッション(景気後退)懸念があるにもかかわらず、株価が上昇するといったねじれ現象が起こったのかもしれないという仮説を立てています。
そこで確認作業をします。
〇独10年物国債(日足)
※TradingView提供
おそらく震源はヨーロッパにあるだろうと考え、ドイツの10年物国債のチャートを確認すると、やはり国債価格が大きく下落しています。
ということは、ドイツの10年物国債利回りは上昇しているはずです。
〇独10年物国債利回り(日足)
※TradingView提供
案の定、10年物国債利回りは上昇してますね。
この上昇は一昨日から始まっているんですが、昨日、急に起こったことではないことを考えると、もともとインフレが強まる中で沸き起こったリセッション(景気後退)懸念による金利の上昇の中に、従来の金融引き締めが始まるだろうというインフレ(退治)へ期待が入り混じっていることが想像できます。
これを裏付けるために、ユーロ指数という、他の通貨に対するユーロの価値を確認します。
〇ユーロ指数(日足)
※TradingView提供
こちらも案の定、ユーロが他の通貨に対して上昇していることがわかります。
これは何を意味しているかというと、ユーロ圏の国債利回りが上昇していることで通貨としてのユーロの価値が高まったことを表しています。
さらに、確認としてドル指数も見ていきます。
〇ドルインデックス(日足)
※TradingView提供
ドルインデックスは他の通貨に対するドルの価値を表していますが、こちらはユーロと違い下落しています。
これは、単純にユーロが買い戻されているため、ドルが下がったことを意味しています。
ということはつまり、今の反応は、本質的にはリセッション(景気後退)懸念による金利上昇にさらに輪をかけて、インフレ(退治)期待による金利上昇が、ユーロ圏において急激に高まったことにより、ユーロが買われているという結論に達します。
それでは、これを確認するためにドイツの株式市場を見てみましょう。
〇DAX指数(日足)
※TradingView提供
DAX指数は急上昇しています。
どうやら仮説は正しかったようです。
リセッション(景気後退)懸念があるにもかかわらず、インフレ(退治)への期待がドイツの株式市場で力強く現れています。
ちょっとまとめますね。
つまり、昨晩の株式市場の反応の背景にあるのは、
リセッション(景気後退)<インフレ退治への期待
だったことがわかります。
こうさせているのが、ウクライナ紛争において、ロシアが人道回廊を設置するために一時停戦を行っていること、ウクライナ側とロシア側の4回目の協議が10日に行われる予定であること、ウクライナ情勢に関する材料がほぼまったく出てこないこと、などが挙げられるでしょう。
一時停戦という静けさの中で間隙を突くように株価が上がった
これが昨晩の株価急上昇の本質のような気がします。
この動きに、原油価格など、これまで上昇してきたコモディティーの売りが後追いする形になりました。
なので、原油価格が下落したから株価が上昇したというわけでは必ずしもないということです。
まぁ、もっと細かくいえば、例えば、今夜発表されるアメリカの消費者物価指数(CPI)の確認作業の一面もあったと思いますし、何よりも3月はメジャーSQに当たるため、株式市場の需給面で見ると値動きが荒いというのも頷けます。
というわけで、一時停戦という静けさの中で間隙を突くように株価が上がったわけですから、「一時的」な上昇となる可能性が高いのではないかと考えています。
この仮説が正しいかどうかを確認するためにアメリカの株価指数を見てみると、実際の上昇具合いはこんな感じになっています。
〇NYダウ(日足)
※TradingView提供
波形的には大幅高という割にはそんなに上がってない。
こんな印象を持ちました。
S&P500はというとこんな感じです。
〇S&P500(日足)
※TradingView提供
こちらもダウ同様、そんなに上がったという感じはしません。
では、ナスダックはというと、これも見てみましょう。
〇ナスダック総合指数(日足)
※TradingView提供
ナスダックについても同じように映ります。
先ほどのDAX指数に比べると、上昇幅はいずれも半分ぐらいです。
ここで「ん?」と思います。
やはり、ヨーロッパが荒れているということですよね。
DAX指数については出来高が3日連続で比較的多い水準ですが、NYダウを見るとそこまで多いというわけではありません。どちらかというと多い方といったところです。
つまり、今回の株価上昇劇はドイツなどのヨーロッパを起点に2日前から起こっていたことが全世界的に波及したということことができます。
しかも、市場が間違えて反動している可能性もはらんで。
「市場は誤る」という言葉があります。
これは、投資家が結局株価を決めているわけですが、その当事者である投資家は、時として判断を間違えるという意味です。
個人的には、今回の動きは短期的にその典型のような気がしてるんですよね。
なぜならば、中・長期的にはウクライナ紛争は終わってないわけですし、ましてや、ロシアの金融・経済制裁が強化されている最中なので、このようなスパンで見ると景気減速懸念がこれから台頭してくるだろうと考えているからです。
まぁ、わからないですけどね。
日経平均株価指数については、今晩のアメリカの消費者物価指数(CPI)と明日のSQがどうなるかと、週明け16日のFOMCにおけるパウエルさんのアナウンスを通過していく中で、ロシアがどこかのタイミングでキエフに総攻撃を仕掛けるような気がしています。
短期的にはやはりウクライナ情勢、中・長期的にはリセッション(景気後退)の可能性、この2つを中心にマーケットを見ていこうと思います。