中小企業・個人事業主向け家賃補助「ハイブリッド型家賃補助制度」。前提になるのは「融資」と「給付」だけど、その中身は?
中小企業や個人事業主にとって、以前から要望の声が多かった家賃補助。
5月8日に与党の「新型コロナウィルス対策でテナントの家賃支援を検討するプロジェクトチーム」が出した答えは『ハイブリッド型家賃補助制度の創設』でした。
何がハイブリッドなのかというと「融資」と「給付」を組み合わせたという意味のようですが、ここでも融資なのかと、個人的には、また、なんだかなぁという気持ちになっています。
確かにわかるんですよ、自助・共助・公助だっていうことは。
商売をするのは自己責任だし、自分でどうにかできない部分に対して支援するというのはね。
でもね、今回のコロナショックでは、現実的には、そんなに悠長な話じゃないってことをもう少し理解した方が中小零細企業の事業者は助かるんじゃないかなぁと思います。
さて、与党の「ハイブリッド型家賃補助制度」について確認していきましょう。
資料としては、「テナントの事業継続のための家賃補助スキームについて」を参考に解釈していきます。
ちなみに、第2次補正予算案に含まれる内容で、現在、審議中のため、決定事項ではないことはご注意ください。
この制度の趣旨は何かというと、文字通り「家賃補助」です。
これをどのような仕組み(スキーム)で実施するかってことですが、これが先ほどの「ハイブリッド」って言葉で、「融資」と「給付」の2本立てで考えてますってことです。
そして、これを念頭に置いたうえで具体的にはどうなのかという話ですが、まず、「融資」から見ていきましょう。
無利子・無担保の日本政策金融公庫、民間の制度融資を家賃向けに積極化することで、迅速にテナントの家賃負担への支援を実施
つまり、テナント(借り手)は、とりあえず公庫や銀行からお金を借りるってことですね。
活用する融資が無利子・無担保の「特別利子補給制度」。
特別利子補給制度からお金を借りるってことは、当初3年間は無利子ですが、4年目以降で金利が基準利率になってしまいます。
例えば、最初の3年間はゼロ金利で借りられるからいいんですが、4年目以降、基準金利が適用されるため、借入れを起こす事業者としては、単に家賃の補てんを目的にするならば、3年以内に返済することを想定しておく必要があります。
ちなみに、現時点での日本政策金融公庫における基準金利は1.36%/年です。
で、次に「特別家賃支援給付金」です。
これは、ハイブリッド型の「給付」に当たる部分ですが、支給要件を
〇売上高が前年同月比50%減
〇売上高が3ヶ月で30%減
としています。
この基準については、持続化給付金の支給要件よりも緩やかになっています。
ただ、「売上高が3ヶ月で30%減」については、対象となる期間をどのようにカウントするかを確認する必要があります。
そして、特別家賃支援給付金の給付額ですが、次のようになっています。
〇中堅・中小企業 上限50万円/月(給付率2/3)
〇個人事業主 上限25万円/月(給付率2/3)
この意味について考えると、例えば、中堅・中小企業の場合、実際の家賃が75万円/月なら、最大で月50万円を支給するってことですね。
でも、1か月だけ?ってなるので、6ヶ月分を支給しますってなってます。
年内の半年分の家賃について助成
ポイントは「年内」と「半年分」ですが、7月から12月までの6ヶ月分の家賃を支援することを想定しているのかもしれません。
これをもとに6ヶ月分の給付額を計算すると、
〇中堅・中小企業 最大300万円
〇個人事業主 最大150万円
ってことになります。
つまり、6ヶ月分の実際の家賃は、中堅・中小企業の場合、450万円、個人事業主の場合、225万円が想定されているってことですね。
こう見ると、結構、デカイって思うかもしれませんが、足りるところと足りないところが出てくるでしょう。
ちなみに計算式はまだ検討中とのことなので、出てきたら確認するようにしましょう。
ここまで見て、次に気になるのは、借りたお金を家賃に充てたってどうやって証明するの?って話ですが、こんなふうになっています。
従前の賃貸借契約書を確認
実際に契約している賃貸借契約書で、例えば、家賃の額や契約期間などを確認するってことです。
これについては、自治体で実施されている中小企業支援策と似ていると思います。
ここまでが『ハイブリッド型家賃補助制度』の概要です。
これに加えて、「地方創生臨時交付金の拡充」と「地方での独自の取組みへの支援」が盛り込まれています。
まだ、具体的な内容は不明ですが、与党の案では、こんなことが提案されています。
国として実施するハイブリッド型家賃補助制度と組み合わせて、自治体が実施するテナントの事業継続のための取組みに対して地方創生臨時交付金を拡充し、支援する。
イメージ的には、現在、実施している自治体の中小企業支援策をさらに後方支援するってことなんだと思います。
ということは、中小企業や個人事業主にとっては、「融資」と「給付金」に加え、自治体からのサポートで家賃の補てんを考えればいいといことになります。
本当にそうなるのかはわかりませんが、これについては自治体の判断もあるため、地域差が出てくるんでしょうね。
ここまで、与党が提案する「テナントの事業継続のための家賃補助スキーム」について確認してきましたが、中小企業や個人事業主にとっては、やはり「融資」がひっかかる点だと思います。
融資については、新規融資だけでなく、すでに借り入れている融資についても対象とするとなっているため、すでに融資を受けている事業者にとってはあまり悩まずに素直に活用すればいいと思います。
ただ、まだ融資を受けていない事業者にとっては、少し悩ましい問題のような気がします。
なぜならば、融資は、通常、未来への投資という意味合いで行うものだからです。
これを単なる損失補てんの意味合いで実行してしまうと、結局、この制度の意味は、事業者にとっては延命にしかならないため、この点をキャッシュフロー(お金の流れ)をもとにしっかりと検討していく必要があります。
融資を延命と考える場合、必然的に借りる金額は抑えることになるでしょう。
目安としては、単純に、実際にかかる6ヶ月分の家賃を想定します。
例えば、中小企業の場合、実際にかかる家賃が30万円/月なら、半年分の家賃は180万円になります。
「特別家賃支援給付金」では、この2/3が給付されるため、この例で考えると、給付額は月20万円、6ヶ月分で120万円となり、実質的な家賃負担は60万円で済むという計算です。
添付書類としては賃貸借契約書になろうかと思うので、とりあえず、実際にかかる180万円を公庫などから借りておいて、後で「特別家賃支援給付金」から120万円が補助されるというイメージです。
これに加え、「地方創生臨時交付金」による自治体の中小企業支援が拡充されるなら、残りの分をそれで埋め合わせるように考えるといいかもしれません。
ただし、これはあくまでも、せっかく実行した融資を延命目的で考えた場合です。
融資の本来の目的は未来への投資であるため、新型コロナウィルス感染症の収束を想定し、攻めることも考えたいという場合は、家賃の補てんに留まらず、多めに借りることが必要です。
この場合も、キャッシュフロー表によるシミュレーションのもと、返済計画をしっかりと立てたうえで検討するようにしていきましょう。
注意点としては無利子期間が3年であるため、その後、お金の流れがどうなるかは押さえておくようにしてください。
それにしても、国の用意した中小企業に対する緊急経済対策。
基本的な考え方は、「融資」と「給付」と「雇用支援その他」というのが大きな柱になっています。
確かに組み合わせは必要だと思いますが、売上が大幅に落ち込んだ企業に対して融資を強いるというのはかなり酷なように思います。
結果、倒産したり、回復が遅れ、廃業を決断するといった会社は増えると思います。
自助・共助・公助という建前は確かにわかるんですが、そもそも平時と有事とでしっかりと分けて考えられていないため、今後は、このような点も検討され、ルール作りをしてもらえるといいと思います。
たぶん、与党案が通ってしまうと思います。
個人的には、野党案は目下の家賃猶予であるため、野党案の方が優れていると思いますが、党利党略なしに、党派の別なしに、中身を中心とした現実的な議論をしたうえで経済対策を練ってもらえればと思っていましたが、どうなんでしょうね。
もう、変わらないんだろうなぁと思うと残念な気持ちです。