FP OFFICE 海援隊|1970年以降生まれの「ライフ&マネー塾」

これからの時代、変わりゆく常識を少しだけ早くキャッチし、人生に活かしてみる。

「同一労働 同一賃金」が親の働き方を変え、子どもの教育論をも変える。

 「同じ仕事をしてるなら、お給料も同じだよね」

 今、国は「同一労働 同一賃金(same work same pay)」に関する議論を進めています。

 その背景にあるのが「正社員と非正規労働者の賃金格差」です。

 日本の場合、正社員がフルタイムで働いたときの賃金を100とすると、非正規労働者が受け取る賃金の割合は正社員の賃金の56.8。

 フランス(89.1)やドイツ(79.3)などの先進国と比べ低い水準になっています。

 この格差を是正しようというのが「同一労働 同一賃金」にまつわる議論です。

 それでは、仮にこれが実現されたなら、1970年以降生まれのボクらの「働き方に関する価値観」は、どのようなものになっていくのでしょうか。

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 ヨーロッパでは、「職務給」が労働者に対する賃金設定の一般的な根拠になっているケースが多いので、たとえば、会社が従業員と雇用契約を結ぶ際、職務(任務)の範囲を限定し、その任務に対して賃金を支払います

 職務の範囲が限定されるため、営業職は営業だけ、事務職は事務だけ、技術職は製造や製作だけと、仕事の内容がはっきりするのが特徴です。

 これとは対照的に日本では、「職能給」を賃金設定の一般的な根拠としているので、職務(任務)の範囲を明確にせず、人や人の能力に対していくらという賃金設定を行います

 職能給のもとでは仕事の内容が限定されていないので、就職した後に様々な仕事を経験することができます。

 「同一労働 同一賃金」は「同じ仕事なら同じ賃金」という考え方なので、どちらかというと、職能ではなく職務に対して賃金を支払う仕組みといえるでしょう。

 

 それでは、職務に対して賃金が支払われる世界とはどのようなことでしょうか。

 「したい仕事だけする」

 簡単にいうと、こういう世界になります。

 新入社員のAさん。

 以前は、上司や先輩よりも30分早く出勤し、フロアを掃除、それぞれの机に新聞を配り終えたところで朝礼と思いきや、上司のお客さんからの電話を受け、自分の仕事の段取りも不十分なまま、客先を訪問、

という光景が一切なくなります。

 「自分は営業職なので、それ以外の仕事はその職務の人がやってください!」

 極端な例ですが、見方を変えると、それまでの総合職という考え方が修正され、正社員も、派遣社員も、契約社員も、パート・アルバイトもみんな、ひとつの仕事をしっかりこなすプロフェッショナルとして活躍する世界がここに生まれます。

 会社に入って様々な職種をこなすのは完全に幹部候補生に限定され、それ以外の人たちは希望の仕事だけをするプロフェショナルに。

 非正規労働者も職務の面でプロフェッショナルとして扱われることから、正社員との仕事上の差はなくなり、賃金も正社員の賃金を時給換算した金額が支払われます。

 特に非正規労働者の子育て世帯にとっては、家計収入が増えやすい環境が広がるでしょう。

 一方で、正社員の賃金は、幹部コースに乗る人以外は以前と比べ削減される可能性が高まります。

 なぜならば、非正規労働者の賃金が上がると人件費の負担が大幅に増えるので、正社員でも同じ仕事をしているなら非正規労働者に合わせようと経営者が考えるようになるからです。

 

 このように、「同一労働 同一賃金」の広がる世界では「職務給」が賃金の設定根拠となるので、日本でもヨーロッパのようにプロフェッショナルがプロフェッショナルとして評価されやすい土壌が広がっていくでしょう。

 こう考えた場合、会社にとっては「どのような人材が欲しいのか」ではなく、「どのような仕事ができる人が欲しいのか」が採用の基準となります。

 就活をする学生や転職を希望する社会人にとっては、「自分はこの会社でこの仕事がしたい」という希望ではなく、自分の能力や経験をベースに「自分はこの会社でこの任務を遂行できる」という、いわば自信のようなものが今まで以上に問われる時代が来るのかもしれません。

 少しずつ見直されてきた「いい学校を出て、いい会社に入れば幸せな人生が待っている」という価値観。

 おおよそ幻想にすぎなかったと時代が証明したこの価値観は、1970年以降生まれのボクらにとって、「同一労働 同一賃金」により終止符が打たれることになるでしょう。

 ひょっとしたら教育面でも考え方が変わるかもしれません。

 プロフェッショナルがきちんと評価される社会風土のもとでは、単純に塾に通わせて、いい高校、いい大学に行くことが人生の中で重要なことと捉えられにくくなるからです。

 それよりもむしろ、「なぜ高校に行くのか」、「大学に行って何を勉強したいのか」、そして「何を学んできたのか」が社会に問われるようになり、実のある教育をしようと考える親御さんがきっと増えてくることでしょう。

 こうなれば、塾や習い事などの学校外教育費の行き過ぎた偏りも今よりは是正され、国の政策意図に反し増え続けている教育費の家計負担が減るかもしれません。

 「同一労働 同一賃金」という賃金制度への見直しは、その本質として、働き方だけでなく、ライフプランやライフスタイル、子どもの教育にまで影響を及ぼす、21世紀の日本人の価値観を大きく変える要素を秘めています。

 賃金格差というお金の問題に捉われず、様々な観点から本質的な議論を推し進めていただければと思います。

 

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