キラキラした「生産性を上げるっていいよね」論。会社によってはコロナ禍だから余計に生産性上がるけど、それでいいの?
生産性を上げましょう、効率的に仕事をしましょうといった風潮が、もう何年ですかね、ある程度長く続いている気がします。
これっていつぐらいからか忘れましたが、言わんこっちゃない、特に中小企業にとってはそんなの難しいんですって。
一番どうしたものかなぁと思うのが、生産性を上げることは素晴らしいとか、効率性を重視しながら仕事をやりましょうとか言って、それを信じてやまないキラキラした人たちなんですが、個人的にはこの空気がどうも好きにはなれません。
本質的に何が重要かわかって言ってんのかなぁというのが正直な感想ですが、商工会の理事を担う中で、いつぞやいろいろと考えたことはあります。
生産性ってなにかを簡単な数式で表すと、
生産性=産出量 / 投入量
になります。
使った量に対してどれぐらいのものを生み出したかを図ることが目的です。
会社だったら、使った経費に対する売上の割合だったり、投下資金に対してどれだけの売上を叩き出せたかを知るための割合です。
もう少しわかりやすくいうと、「投じたお金がどれだけの売上を叩き出してくれたか」ってことです。
なので、生産性を上げるためには、単純に
①産出量を増やす
②投入量を減らす
のいずれか、もしくはその両方を実行すればいい話です。
もう少し具体的に見ていきましょう。
ちょっと難し目ですが、労働生産性の話です。
労働生産性には「物的労働生産性」と「付加価値労働生産性」の2つがありますが、
○物的労働生産性
労働生産性=生産量 / 労働投入量
○付加価値労働生産性
労働生産性=付加価値額 / 労働投入量
のような計算式で表せられます。
一般的に生産性を上げましょうというのは「付加価値労働生産性」で語られますが、付加価値労働生産性とは、投入した労働者が結果的にどれぐらいの付加価値、つまり、売上を叩き出したかを知るための指標といえます。
労働生産性を上げるには、
①付加価値額を増やす
②労働投入量を減らす
のいずれか、もしくは、その両方を実行すればいいわけですが、付加価値額ってなに?っていうと、
付加価値額=営業利益(売上-原価)+人件費+減価償却費
なので、①「付加価値額を増やす」場合、営業利益と人件費と減価償却費を増やしていけば労働生産性は高まります。
要は、単純な分数の計算なので、分子が増えれば生産性は上がりますよねって話です。
一方、②の「労働投入量を減らす」場合、分母を減らせばいいわけですが、この分母は労働者の数や労働時間です。
労働者数や働く時間を減らせば労働生産性は上がりますよねって話ですね。
アベノミクス以来、生産性の向上が叫ばれていますが、分子である付加価値額を増やすにはどうすべきか、分母である労働投入量を減らすにはどうすべきかで、全方向的に政策が実施されており、その過程でさまざまな問題が浮かび上がっています。
ここ近年、日常生活の中で気づくことでいうと、例えば、居酒屋に行ったら注文がタッチパネルになってたなんていうのは、まさに労働生産性を上げるための試みの典型といえます。
これについてはそれなりに労働生産性の向上が実現できているように思います。
だって、そうでしょ、ITによって労働投入量を減らすことができ、かつ、注文を受ける効率が高まったことで売上が増加したというのは想像に難くありません。
ついでに、注文を取りに行く時間が省けたことで他のサービス向上につなげやすくなっているため、このような事例では労働生産性の向上は正解だったといえます。
一方、分子の付加価値額の内、人件費に着目すると、ここ何年も連続して最低賃金を増やしていっているため、労働者数が減っていなくても必然的に労働生産性は高まります。
これについても労働生産性はある程度伸びていると思いますが、逆に人手不足が慢性化している業界や非正規労働者に頼っている業界、またリストラを断行しているような会社では、分母である労働投入量が減少するため、好ましくない労働生産性の向上が進行していると思われます。
これは良くないですよね。
企業にしてみれば、最低賃金の引き上げは強制的な人件費の増加なので、分母の労働投入量を維持しようとなると、かえって経常利益が減少する恐れがあるため、経営がきついというのが本音だと思います。
労働生産性の向上には、特に中小企業においてはこの問題がはらんでいるため、安易に生産性の向上っていいよねとか、効率性を重視しようねなんてひとくくりにして語るのは良くないわけです。
ぶっちゃけ、中小企業がそれをするのはかなり難しく、ましてや働き方改革を中小企業にまでもうスピードで適用しちゃっているので、地元商工会の理事としては副作用についてもっと配慮してくれないかなぁと思っています。
その配慮の仕方が補助金・助成金制度なので、今から過去を振り返ると、結局、あんま上手くいかなかったじゃんというのが正直な感想です。
持続化補助金しかり、ものづくり補助金しかり、IT補助金しかり、実質的に生産性の向上が継続して実現できた企業ってどれぐらいあるんでしょうか。
むしろ、中小企業の経営者にとっては売上の向上こそが必要なわけで、需要不足を解消してあげるのが最も重要な政策だと思うんだけど・・・ともんもんとしています。
生産性の向上はどちらかというと供給サイドの要素が多いため、逆なんだよなぁ。
付加価値額の構成要素に減価償却費がありますが、これは設備投資のことです。
設備投資は売上を増やすために機械などを導入することですが、それの経年劣化分の費用を分子として加算してくれるようになっています。
ただ、これもホントはおかしな話で、企業は将来売上が上がると思うから機械などの設備を買って投資するわけですよね。
でも、需要不足の中、将来の売上を上げるのが難しいと思っていたら、そもそも設備投資なんかしません。
これについても助成金制度が設けられていますが、こっちの方があまり成果は上がっていない気がします。
計算式で考えちゃダメですよね。
企業の実情がわかっていたら、労働生産性で企業経営は語れないというのは当たり前のように気づくはずですが、会社員にとって身近な例でいうと、働き方改革ですよね。
働き方改革は、今のような需要不足が極めてきつい経済状況の下では、どちらかというと、結果的に、労働投入量減少バイアスや、最低賃金が上がったところで、全体の総和を考えた場合の収入減少バイアスがかかりやすくなります。
労働投入量が減って、付加価値額も減ると、労働生産性は単なる比率であるため変化しないことになりますよね。
意味ないじゃん。
その代わり、働き方改革は家庭で過ごす時間が増えるという長所もあるので、それはそれでいいんですが、企業の労働生産性が変わらずに、会社員の収入が減り、家庭の時間が増えるって、果たして、これって良い政策と呼べるのでしょうかという疑問が残ります。
こういうのも考慮して、わが社にとって労働生産性を高めるにはどうすべきかって考えた方がいいですよね。
キラキラしてる会社員の人が陥りがちな「生産性を上げるのって大事だよね」、「効率性を重んじるのって必要だよね」という「いいね運動」は、必ずしも「いいね」になってないことが結構あるように思います。
中身で考えなきゃダメって話なんですが、コロナ禍にあって、異様に労働生産性が高くなる企業が増え、その反面、必死に頑張ってこらえている企業の労働生産性は伸びにくくなるのではないでしょうか。
今日、地元商工会の事務局の方と話をしていたんですが、アベノミクスで実施されていた補助金や助成金は減らされるか、来年度以降は姿を変えて実施されるかもしれませんねと言っていました。
コロナでお金をいっぱい使っているので、国にはそんな余裕はないということなのかもしれませんが、普通に財政出動をして需要喚起策を打ち出せばいいのにとずっと思っています。
コロナだから景気が悪くなっている以前に、そもそも需要が足りていないから経済が回っていないだけなんですけどね。
国を挙げて資産運用を推奨して長期投資なんてやってる場合じゃないんですよ。
守りに入ってもいいことないと思います。