確定拠出年金。ファイナンシャル・プランナー(FP)の思う「ホントのところ」(投資信託編)
確定拠出年金の運用先について、すでに「定期預金編」と「利率保証型積立保険編」を見てきました。
今回は、いよいよ「投資信託編」です。
確定拠出年金制度は、自分の年金を自分で投資しながら増やしていくからこそ、税の優遇のありがたみを感じることができます。
確定拠出年金は、そもそもの目的が「資産運用」や「投資」の喚起にあります。
定期預金や利率保証型積立保険などの元本確保型の金融商品では、確定拠出年金の最大のメリットである「運用コストがかかっても、税の優遇度合いが高いので、リスクを取りやすい」を活かしきれません。
つまり、確定拠出年金制度で最も恩恵があるのは、「投資信託を選択し、積極的にリスクを取りに行く人」なんです。
それでは、投資信託について少し見ていきましょう。
投資信託とは、「投資家から集めたお金」を「運用の専門家(投資信託運用会社)」が、株式や債券、不動産など、国内外の「さまざまな投資対象に分散投資」していく資産運用のひとつの方法です。
みんなから集めたお金をプロが運用。
よくこのように表現されますが、プロが運用しているのではなく、あくまでも運用や投資判断は投資家、つまり、お金を出しているみなさんであることはお間違えなく。
投資信託の運用会社は、単にファンド(投資信託)を組成し、みんなからお金を集め、投資家の指図のもと資産を分散投資しているだけにすぎません。
なので、大切なのは、投資家=みなさんが経済や金融商品についてある程度理解したうえで資産運用をすること。
これが自己責任の本当の意味です。
損をしたら、その責任は自分にあるという意味で「自己責任」が使われますが、前提として「知っている」がこの中には含まれています。
知らない場合は問われない。
だから、金融機関には説明義務があるんですね。
そして、投資家であるみなさんには、学ぶという努力義務があります。
さて、投資信託の概念がわかったら、今度は投資信託のリスクとリターンの関係について見ていきましょう。
投資信託は、大きく分けると次のように分類されます。
①国内債券型:日本国債中心
②海外債券型:外国債中心
③国内REIT型:日本の不動産が中心
④海外REI型:海外の不動産が中心
⑤国内株式型:日本株が中心
⑥海外株式型:外国株が中心
これらをバランス良く配分したものが⑦バランス型と呼ばれる投資信託です。
この代表的なものが「ファンズ・オブ・ファンズ」で、投資信託に投資をする投資信託、ややこしいですね。
〔投資信託におけるリスク・リターンの関係〕
債券型<REIT(不動産)型<株式型の順にリスクとリターンが高くなっていることがわかりますね。
ちなみに、国内と海外の関係は「国内<海外」です。
次に、投資信託を選ぶときのポイントです。
①投資信託のタイプをどれにするか。
②投資信託の中身はどうなっているのか。
③投資信託の運用成績はどうなっているのか。
①投資信託のタイプをどれにするか。
これは、先述した国内債券型とか、海外株式型とか、投資信託のおおまかな投資対象をどれにするのかということです。
一般的には、景気がこれから良くなっていくだろうというときは「国内株式型」や「海外株式型」を、逆に悪くなっていくだろうというときは「国内債券型」や「海外債券型」を選びます。
ただし、海外株式型や海外債券型などは、為替リスクがともなうので注意しましょう。
円安になると利益が出ますが、円高だと損失を被ります。
②投資信託の中身はどうなっているのか。
投資信託は中身を紐解くと、債券(国債や社債)や株式、不動産、通貨、金など、さまざまな金融商品に投資されています。
国内債券型や海外株式型などの投資信託のタイプは、言うなれば外側の殻の部分。
実際に中身を確認しないことには正確なことはわかりません。
株式ひとつとっても、金融株なのか、資源株なのか、電力株なのかで違いがあります。
債券ひとつとっても、日本国債なのか、優良企業の債券(社債)なのかで、利回りが変わってきます。
③投資信託の運用成績はどうなっているのか。
投資信託の運用成績は「目論見書」で事前に確認できます。
また、新しく組成された投資信託でなければ「運用報告書」に目を通してみましょう。
直近6カ月、1年、3年と、投資期間ごとに運用成績を知ることができます。
さて、ここまで投資信託の“い・ろ・は”を見てきましたが、難しそうですよね。
確定拠出年金制度のPRでは、なるべく多くのみなさんに活用していただきたいということで、どうしても簡単なイメージで訴求しがちです。
でも、実際にやろうとすると、ホントはこういうことは最低限必要なことです。
ファイナンシャル・プランナー(FP)事務所などでは、ここから、各投資信託のチャートを作成し、投資分析を行い、運用に関するシミュレーションを複数用意していきます。
この先に利益がある。
それでは、実際に三菱東京UFJ銀行の確定拠出年金で投資信託を見ていきましょう。
選ぶのは、比較的運用しやすい「インデックスファンド225」という投資信託です。
これが「目論見書」、いわゆる「投資信託の取扱説明書」です。
確認すべき箇所は★印の部分です。
①投資方針
「日経平均株価指数と連動する投資成果を目指します」と書いてあります。
日経平均株価指数が基準になってるという意味です。
つまり、テレビなどで“今日の日経平均株価指数”の値をチェックすればいいので、運用状況の確認が比較的楽にできます。
②主要投資対象
「わが国の株式」と書いてあります。
国内株式型の投資信託なんだなということがわかります。
日経平均株価指数に採用されている225銘柄の株式が主な投資対象になっているという意味です。
「日経平均株価」と書いてあります。
ベンチマークとは、投資信託の価格変動を近似させる主要な指標です。
インデックスファンド225では、日経平均株価指数と連動して基準価額(投資信託の価格)が動くという意味です。
ここでは、これだけ理解すれば十分です。
この投資信託は、日経平均株価をマネた動きをする国内株式型の投資信託だ。
今度は「運用報告書」を見ていきましょう。
運用報告書は、「投資信託の成績表」です。
インデックスファンド225がどれぐらいの運用利回りなのかを確認します。
上から順に確認していきます。
①基準価額の推移グラフ
インデックスファンド225の基準価額(価格)が、日経平均株価指数と連動していることがわかります。
②ファンドとベンチマークの収益率とリスク
ここでは、インデックスファンド225の収益率だけ押さえてください。
3ヶ月、6カ月、1年と投資期間ごとに利回りが載っています。
これは、年利ではなく総利回りなので、定期預金や利率保証型積立保険と比較する際は、記載してある総利回りを投資期間で割って算出します。
たとえば、投資期間が10年の場合、総利回りが1.84%なので0.184%が年利になります。
定期預金・利率保証型積立保険よりは格段に利回りが高いことがわかります。
③株式組入上位10業種
インデックスファンド225の中身がどのような業種なのかが記されています。
電気機器・情報通信・小売業がトップ3になっています。
④株式組入上位10銘柄
インデックスファンド225が投資対象としている会社が、ここではわかります。
ファーストリテイリング(ユニクロ)、ソフトバンクグループ、ファナック(電気機器:ロボット)がトップ3です。
ここでは、日経平均株価指数の動きと連動していて、長い目で投資をすれば比較的安定運用が得やすい、日本の主力産業・主力企業の株式に投資されているから安心みたいな解釈ができると思います。
さて、これで、「目論見書」=投資信託のトリセツ、「運用報告書」=投資信託の成績表の見方がなんとなくわかったと思います。
次は、確定拠出年金を利用して、インデックスファンド225で運用した場合の計算をしていきましょう。
今回も前回同様、三菱東京UFJの確定拠出年金を利用することを前提に手数料を確認していきます。
(運用商品)三菱UFJ国際投信「(DC)インデックスファンド225」
(年利)-7.47% ※1年間の総利回りでカウント
(掛金)毎月1万円ずつ
(初年度運用コスト)年間9,317円 ※信託報酬は除く
(次年度以降運用コスト)年間6,540円 ※信託報酬は除く
(1年目の運用収益)※計算を楽にするために年単利のもと簡易計算
(1万円-545円)×12か月×(1-0.0747)-2,777円
=10万7,761円
(1年目の運用収益が逆に+7.47%の場合)※計算を楽にするために年単利のもと簡易計算
(1万円-545円)×12か月×(1+0.0747)-2,777円
=11万9,185円
1年目の運用収益が-7.47%の場合は10万7761円、+7.47%の場合は11万9,185円という結果になりました。
さすがにリスクがあるので、損失を被ると運用コスト分も計算に入れるのでマイナスが目立ちます。
でも、反対にプラスになると、利益が運用コスト分を押し上げ、あと少しで元本を超えるところまで到達しています。
これが資産運用なんです。
定期預金や利率保証型積立保険とはここが違います。
三菱東京UFJ銀行の確定拠出年金では運用コストが高めなので、もう少し運用コストの安い金融機関を選ぶと、+7.47%の利回りの場合、元本を超えてくるでしょう。
この結果のもと、節税効果を考慮してみましょう。
所得税率が10%の場合、年間の節税額は簡易計算で1万2,000円。
これに、-7.47%、+7.47%での金額を加えると、家計全体の節約効果は、
(-7.47%の場合)年間-239円
(+7.47%の場合)年間+1万1,185円
となります。
利回りがマイナスになると、節税効果が削がれる反面、プラスの場合は節税効果がより目立ちます。
別の見方をすると、税の優遇があるおかげで損失を被ってもマイナスを抑制でき、反対にプラスになると、家計全体でのやりくり効果がより増加しやすいということがわかりました。
つまり、確定拠出年金は、やはり資産運用のためにあり、積極的にリスクのある金融商品に投資する方が運用効率が高いと言えます。
ここで考えておくべきポイントは「マイナス幅」です。
「この投資信託は、マイナス何パーセントまでなら運用に耐えられるのか」を事前に計算する。
これが、確定拠出年金で「投資信託」を選ぶ際の1番のポイントです。
(結論)
老後の生活資金を準備する。
⇒投資信託で運用するなら、普通に銀行や証券会社で運用するよりも、確定拠出年金を活用すべし。
⇒ただし、マイナス何パーセントまでなら運用に耐えられるのかを事前に計算しておくこと。
どうやら、定期預金よりも、利率保証型積立保険よりも、投資信託で運用する方がお金は活かせそうです。
今まで見てきたことを踏まえ、「定期預金:何%」、「利率保証型積立保険:何%」、「投資信託:何%」のように掛金を分散して投資していくと、全体的な家計のやりくり効果はさらに増します。
最終的にはこれが1番なんですね。