「幸せを構成する、豊かさの3要素」とは。
人生の意味は何かと問われれば、おそらく「ない」というのが答えのような気がします。
これは至って単純な理屈ですが、所詮、人間も動物の一種に過ぎず、であるならば、生まれたら必ず死んでいくことになるため、人生とは、単に人が死に向かって生きていくための一連の時間的な経過としての行為であると定義づけられるかもしれません。
要は、人間は生まれたら死ぬだけの存在ってことです。
土から生まれて、土に還るという単純な循環。
だから、人生について、いろいろと頭を悩ます必要はそもそもなかったりするわけで、この発想が、いわゆる「死生観」に結びついていきます。
人生に意味を持たせようとすると、その瞬間、生という欲望に支配されるようになります。
生という名の欲望に支配されてしまうと、要らぬものまで過剰に求めるようになり、それが人生を余計に複雑化させ、絡まり合った毛糸のように、悩みごとの坩堝から抜け出せない状況を生み出してしまいます。
何が言いたいかというと、人生には然したる意味がないわけだから、未来のことを気に病むよりも、今をしっかりと見つめ、大切なものを意識しながら、最後に死を全うしさえすれば良いということです。
ここに立脚して生きていけば、おのずと人生にとって何が大切かが見えてきます。
その大切なものというのが「死生観」の土台になり、「幸福感」につながってくるわけです。
そこで今回は、ファイナンシャル・プランナー(FP)事務所を開業して15年目の集大成として、「幸せを構成する、豊かさの3要素」というお話をします。
※筆者作成
掲載した画像は、今年から導入した、FP相談に際して活用しているヒアリングシートの1ページ目を抜粋したものです。
これまでいろいろとお金や暮らしに関する相談に乗ってきましたが、ケースによっては歪な価値観に基づいた相談内容が目立つようになってきたため、頭の中を整理してもらうために活用することにしました。
要は、人生観について縺れた糸を解き解すためにこれを使うようにしているということです。
「幸せを構成する、豊かさの3要素」は、幸せというものが3つの豊かさに基づいて成り立っていることを指し示すものです。
①心理的豊かさ
②環境的豊かさ
③経済的豊かさ
これら3つの豊かさの軸があって初めて、人は幸福感が味わえる人生を送ることができるようになります。
それでは、まず、心理的な豊かさについてですが、これは「自分」と「他者」との関係性が満たされているかどうかを顧みるための項目です。
心理的な豊かさには、大きく分けて「自尊心・尊厳」、「感情の利他性」、「共同体」と3つの項目を組み入れていますが、「自尊心・尊厳」とは、平たくいえば、自己肯定感があるかどうか、「感情の利他性」とは、他人に対する思いやりの程度、「共同体」とは、夫婦・家族・親戚や友人・同僚、ご近所・地域社会・その他など、自分と他者との間で人間関係が構築されているかどうかという視点です。
※筆者作成
簡単にいうと、自分自身を自分で認めてあげられているか、人に対して優しく振舞うことができているか、自分を取り巻く人間関係が良好かどうか、この3基軸で構成されています。
なぜ、心理的豊かさを豊かさの3要素のひとつとして取り入れているかというと、内面がある程度満たされていない限り、人は幸せを感じることが難しくなるからです。
例えば、将来に対して異様に心配してしまう方の場合、過去の相談内容を振り返ると、これら3つのうちいずれかに原因があったりします。
将来の生活が不安だ。特に家計のことだから、専門家であるFPに相談しよう。
そんな方が年々増えていますが、実際に向き合っていると、おおよそ、「自尊心・尊厳」といった自己肯定感が希薄だったり、夫婦間で価値観のズレが大きかったり、そもそも相談できるような家族や友人と疎遠になっているといった心理的な側面による影響が大きいように感じています。
ということは、家計について相談するのが本質的な問題解決とはならず、むしろ、自分自身の内面に課題があり、それについてどのように振舞うべきかに焦点を絞る必要があると考えるのが賢明といえます。
ふたつ目の環境的豊かさですが、これも3基軸あります。
※筆者作成
「空間」と「時間」、「距離」の3つですが、これらに共通するのが「暮らしを取り巻く環境」です。
どんな家に住むかという空間要因では「ゆったり」の度合いを、日々の生活でどのように過ごすかという時間要因では「のんびり」を、そして、家から職場、家から学校、家からスーパーまでなどの距離要因では「楽」を、それぞれの感覚的な基準として捉えていきます。
なぜ、こういった環境要因が幸せを構成する要素になり得るかというと、のんびり、ゆったり、楽といった感情が、気持ちとしての「ゆとり」や「余裕」を生み出すからです。
例えば、都内に高額なマンションを買いたいという希望というか、憧れがあるとします。
それはそれで否定はしませんが、人生を過ごす上で、東京でのマンション暮らしは、果たして、「ゆったり」、「のんびり」、「楽」の3つを満たすことができるかというと難しいだろうと感じます。
今のようなコロナ禍の状況では、人口密度の高い地域にいると、ただでさえ、感染リスクは高まります。そうすると、必然的に生活面での時間的な制約が生まやすくなります。
また、自然災害に見舞われた際、建物の倒壊や道路の渋滞、買い出しの際の混雑など、余裕を持った行動が極端に難しくなる恐れがあります。
このような場面を想定し、ゆったり、のんびり、楽に日々を過ごせる軸をあらかじめ確保しておく必要があるわけですが、マイホームを購入する際の相談にありがちなのが、そういった人間本来のアナログ的な感覚を軽視して、欲望に駆られる如く、無理して住宅ローンを組んでしまうケースです。
このようなことを回避するために、環境要因を幸せを構成するためのひとつの軸にしています。
心理的な豊かさ、環境的な豊かさがある程度成り立って初めて、最後の経済的な豊かさがクローズアップされてくるわけですが、経済的な豊かさの軸には「家計」、「仕事」、「利便性」といった経済合理性があるかどうかという3要素を当てています。
※筆者作成
現実問題、心理的な豊かさがあっても、環境的な豊かさがあっても、経済的な豊かさがなければ、幸せと言い切ることはできません。
ですので、家計面、仕事面、利便性(=便利さ)といったものがどの程度満たされているかという視点も重要な要素になってきます。
一般的にFP相談は、経済的な豊かさのうち「家計」に関することに焦点を当てていますが、心理的にも、環境的にも、ある程度満たされている場合に、その効果が発揮されます。
ということは、裏を返すと、心理的にも、環境的にも満たされていない可能性が高い状況では特に、家計に関する相談をしたところでほぼ意味がないということになります。
冒頭にお伝えした「人生にとって大切なもの」を、このような形で整理してみると、おのずと豊かさとは何か、幸せとは何かについて自分なりに結論を導き出すことができるようになるかと思います。
本質的には、自尊心・尊厳、感情の利他性、共同体という3つの「心理的な豊かさ」を基盤として、「環境的な豊かさ」も考慮し、「経済的な豊かさ」がある程度備わっていれば良いというのが答えになりそうですが、中でも、「死生観」を育むのが「心理的な豊かさ」です。
つまり、人生にはさほど意味がない。しかし、日々を死生観に基づき、真剣に生きていれば、最終的に幸せに死ぬことができる。
そのための条件設定が「幸せを構成する、豊かさの3要素」であるというわけです。
今回は、「幸せを構成する、豊かさの3要素」という話をしました。
闇雲にお金のこと、暮らしのこと、将来のことに気を揉むのではなく、こういった環境設定というか、戦略的基盤について時折顧みるだけでも、人生の受け止め方が変わるのではないでしょうか。