30代夫婦、家を買う。
30代ご夫婦、家を買う。
今のようなネット社会では、ネットで流れてくる情報に、つい惑わされがちです。
マイホームの購入に際しても、住宅ローンの都市伝説的な話=「住宅ローンを借りるときの年収の目安」を鵜呑みにし、背伸びをして住宅ローンを組み、家計がやたら苦しくなってしまうケースがあります。
今回のご相談では、初回のヒアリングの際にこのようなことをご質問してくださったので、家計が必要以上に悪化することを未然に防ぐことができました。
〔家族構成〕
夫:大企業にお勤めの会社員(年収約600万円)、妻:専業主婦
第一子:私立幼稚園、第二子:産まれたばかり
〔相談内容〕
預貯金が約300万円。
ハウスメーカーから提示されている住宅ローンは4,000万円。
「土地・建物で3,000万円台の物件を探していますが、4,000万円の提示を受け、子どもの教育資金と老後の生活もあわせて考えると、将来、我が家の家計はどのようになるのでしょうか。」
この相談、普通に考えると、「無理して4,000万円の住宅ローンを組まなければいいじゃん」って思いますよね。
でも、ネットでググルと、「返済負担率」という言葉が出てきて、これをもとにこんな表現がされています。
①住宅ローンの借入れの上限は、“年収の7倍まで”
②無理なく住宅ローンを返済していける目安は、“年収の5倍まで”
リーマンショック前ぐらいまでは、住宅ローンの借入れの目安は“年収の6~8倍”と言われていました。
時代によって違ってるっ!
住宅ローンを借りる際は、金利と借入年数に応じて「借入可能額」が銀行で設定されています。
年収の~倍という表現に引っ張られてイメージしようとするので余計にわかりにくくなります。
今回のご相談者は、もっと単純に「毎月いくらぐらいなら、家計に負担なく返せそうかなぁ」という点におぼろげに気づかれていたので、将来の生活が成り立つかどうか、わざわざ弊FP事務所にご相談くださいました。
最終的にはネットなどで出てくる情報に踊らされず、なんとなくでもいいから自分で考える力、これが最も大事なのかもしれません。
あとは、よくわからないところを専門家に聞く。
これで大きく道にそれるようなことはなくなるでしょう。
とはいいつつも、住宅ローンを組むと、家計の負担は大きくなります。
ましてや子育て世帯ですから「お子さんの教育・進学資金の準備」はもちろんのこと、「老後の生活資金」を貯めていく必要もあります。
住宅ローンを返して、子どもの学費を準備して、老後のお金も貯めていく。
このライフプラン上、最も難しい将来の資金シミュレーション(=キャッシュフロー・シミュレーション)に今回は対応させていただきました。
まずは、今の家計状況の把握からです。
収入と支出、そして収入から支出を差し引いた純利益(貯められるお金)を見るために「損益計算書(P/L)」を作成します。
この部分が一般的な「家計簿」です。
その後、「貸借対照表(B/S)」を作成します。
これは、資産と負債、資産から負債を差し引いた純資産(所有している本当の財産)を見るためのもので、「資産表」と言います。
家計簿と資産表を把握するうえでのポイントは、
①毎年、いくらお金が貯められるのか
②毎年、財産がどれだけ増えているのか
をわかるようにすることです。
仮に、お金の貯まり具合いがよくないなと判断したら、どこかに必ず問題があるので、その問題をできるだけ洗い出します。
今回の場合は、支出面に問題があり、「基本生活費」、「教育関連費」、「生損保の保険料」、「社会保険料」、「税金」が同世代の人たちと比べ割高になっていることがわかりました。
あとは、それぞれの項目についてどのように工夫すべきかを考えるだけです。
たとえば、基本生活費の中では、食費・通信費(携帯電話代など)・夫のお小遣いの割合が際立って高くなっていました。
教育関連費は、お子さんのことを考えるとなかなか手をつけられません。
生損保の保険料は、車と住居にかかる分を除いたものですが、月々約50,000円と、これも同世代に比べ割高になっています。
社会保険料と税金については、法律で定められているのでなんとかできるものでもありませんが、支払われるお給料の仕組みを解説し、どのようにすれば抑えられるのかレクチャーさせていただきました。
現在の家計状況を把握するのは、お金の使い方や貯め方の癖を見るためのものです。
お医者さん風にいうと、生活習慣についてのヒアリングですね。
損益計算書(P/L)=家計簿が終わった後は、貸借対照表(B/S)=資産表を見ていきます。
資産表では、所有している本当の財産を見ますが、それ以前に、お金を効率的に貯めるための工夫をしているかどうかチェックします。
日本人の場合、おおよそリスクを取りたがらないので、通常、銀行や郵便局の口座でお金を管理しています。
これらの口座では金利が極端に低いので、お金は一生貯まっていきません。
銀行でもどの銀行がいいのか、普通預金と定期預金の金利の違い、比較的安全と言われるリスクの低い金融商品は何かなど、より効果的にお金を貯める方法を伝えました。
その後は、本題の住宅ローンを借りた場合のキャッシュフロー・シミュレーションです。
家計を改善したことを前提に、毎年の住宅ローンの支払いをプロットし、子どもの教育・進学費や家族旅行、結婚準備資金、退職金、リフォーム、年金、介護、葬儀・墓石、相続など、事前のヒアリングでうかがった「ライフデザイン」をもとにライフプラン(生活設計)を組み立て、将来のキャッシュフロー(お金の流れ)がどのようになるのかを把握していきます。
今回のご相談のポイントは、「月々、いくらの住宅ローンの返済なら、家計に負担がかからないのか」を見ることです。
結論として、4,000万円の住宅ローンを借り入れた場合、生活はぎりぎりになる可能性が高いということがわかりました。
すでにご夫婦で他の物件もご覧になられていたので、そちらも検討してみましょうということになりました。
「マイホームを買う」ということは、子育て世帯にとっては、家計的に「お子さんの教育資金」と「老後の生活資金」も同時に考えることを意味します。
これらは、一般的に「人生の3大支出」と言われますが、どれかを集中して考えるのではなく、優先順位をつけながら同時並行的にお金を貯めていく必要があります。
そのために1番大切なのは「家計のバランス」。
極端に偏るとどこかが頓挫してしまいますので、十分、気をつけていきましょう。
今回は、ネットの情報に惑わされず、ご自身で考えたからこそのご相談でした。
30代、年金定期便を見ると、この世代以降の人たちが将来受給する年金は、今、年金をもらっている団塊の世代から上の人たちと比べ、おおよそ3分の2以下になる可能性があります。
若い世代は、このようなことも情報としてキャッチしているからこそ、早いうちからしっかりと対策を立てていこうとしているんですね。
その中でFP事務所を選んでいただけるのは本当にありがたいことです。
これから、どんな時代になるのでしょうか。
家計を見つめるだけでも、将来のこの国の方向性がおぼろげにわかってきます。