保険を使った教育資金の準備。戻り率の表示マジック!
お子さんの教育資金をどのように準備すればいいのか。
ご相談者様から次のようなお話をうかがいました。
「保険ショップで学資保険に入ろうと思って、始めはその話をしていたんですが、あとから貯蓄性の死亡保険500万円をすすめられ加入しました」
「お店の方が言うには、“10年経過後に解約した場合の返戻率(戻り率)が高いので、効率的にお金が貯まります”ということでした」
「最近、このような貯蓄性のある死亡保険を選ぶ方が増えているそうですが、もしかして、何らかのキャンペーンかなにかで、これを勧められたのでしょうか・・・」
このような保険の提案は、貯蓄性のある死亡保険の解約返戻率(戻り率)に着目し、教育資金を上手に貯めていくという触れ込みで行われます。
お子さんの教育資金については、日本人の中では「学資保険神話」に引きずらやすいので、それ以外の貯蓄・準備方法(銀行の定期預金やリスクの低い金融商品、財形教育融資、教育資金の贈与、奨学金など)を選ばない傾向が強いため、貯蓄性が高ければ受け入れやすいという時代背景のもと、ご相談のような「貯蓄性のある死亡保険」が提案されるケースがたまに見受けられます(普通は学資保険を選択)。
少し詳細を見ていきましょう。
〔保障内容〕
保険商品:5年ごと利差配当付き終身保険(貯蓄性のある死亡保険)
保険期間:終身(一生涯)
保険金額:死亡保険金500万円
保険料(月):22,735円
解約時期:加入から10年経過後(11年目で解約)
解約返戻率(戻り率):101.0%
〔活用の目的と方法〕
活用の目的:教育資金の準備
活用の方法:10年経過後に戻り率が100.0%を超えるので、11年目に戻り率が101.0%になった時点で解約し、現金化する。
『解約返戻率(戻り率):101.0%』
この提示を受けると、「銀行よりも金利が高い!」という印象が持たれやすいかと思います。
保険ショップや保険の代理店、保険のおばちゃんなどは、「ほら、金利高いでしょ? 銀行に預けるよりもお得よ?」と言ってしまうので、「そうなんだぁ・・・」と思いがちです。
でも、そもそも「戻り率が高い」ってなに?
「それまで払い込んだ保険料(既払込保険料)」よりも、「戻ってくる保険金(解約返戻金や満期保険金など)」の方が多い状態を割合で表した数値のことです。
なので、前述の「解約返戻率(戻り率):101.0%」の意味は、払い込んだ保険料よりも戻ってくる保険金の額の方が1.0%(=101.0%-100.0%)多いことを表しています。
だから、金利が高い!
少し早合点しすぎです。
戻り率とは、資産運用でいうところの「総利回り」のことなので、運用期間は全期間を対象としています。
つまり、このケースでいうと、11年目で解約なので保険期間(=投資期間)を11年と考えます。
一般的に金利を比較する場合、「年利」で統一して計算する必要があることから、解約返戻率(戻り率):101.0%のプラス部分である1.0%(=101.0%-100.0%)を保険期間で割ります。※解約の時期に合わせて投資期間を設定するので、期間が長ければ戻り率は高くなりますが、長くなった分の期間で除するため、常に計算にもとづき判断する必要があります。
『1.0%÷11年=0.09%(年)』
解約返戻率(戻り率):101.0%の年利は、実を言うと、わずか『0.09%』しかなかったということがわかりました。
2016年11月現在の某ネット系銀行の5年物定期の金利(年)が0.3%となっています。
あれ? 定期預金の方がいい?
そうなんです。
しっかりと計算すると、このような結論に達することもままあります。
普通は、保険ショップや保険代理店、保険のおばちゃんなどの保険屋さんは、ここまでの計算はしないので、よくわからず勧めているのが現実なのでしょう。
保険ショップでは、保険会社による保険商品ごとの販売促進(キャンペーン)期間があるので、販売のタイミングが偶然重なり、学資保険ではなく、このような貯蓄性のある死亡保険につながったと考えられます。
保険は金融商品です。
すべては数学的な計算によって組み立てられています。