FP OFFICE 海援隊|1970年以降生まれの「ライフ&マネー塾」

これからの時代、変わりゆく常識を少しだけ早くキャッチし、人生に活かしてみる。

老後の生活は、お勤めの会社の「退職金規定」と「企業型確定拠出年金規約」を読まなければ、本質的に描ききれない。

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 大企業だけでなく、中規模の会社でも採用数が増えつつある確定拠出年金制度。

 中でも「ライフプラン年金」という名前で、社内の福利厚生制度として企業型確定拠出年金制度を設けている会社が目立つようになっています。

 

 確定拠出年金制度というと、老後の生活資金を準備する方法として理解されていると思います。

 企業型確定拠出年金の場合、事業主が従業員のために掛け金を拠出し、また、従業員もお給料の一部を掛け金として拠出できるようになっています。

 このような方法を「マッチング拠出」といいます。

 

 先日、あるご相談者さんからのご依頼で、老後の生活資金について、お勤めの企業でどのように準備できるかについて確認作業を進めていました。

 就業規則や給与規定、退職金規定、企業型確定拠出年金規約を読み進めていたところ、次のような点が明らかになりました。

①退職金が、退職時の基本給の30カ月分を限度額としている。

②企業型確定拠出年金で、事業主が拠出する掛け金が基本給の5.0%となっている。

③企業型確定拠出年金で、事業主・従業員が拠出する掛け金の限度額が27,500円となっている。

 ①については、仮に退職時の基本給が40万円/月だった場合、退職金は1,200万円になります。

 正規の退職金の計算式で算出すると、おおよそ2,000万円超になりますが、退職金規定に限度額の項があり、このため、退職金の支給額が抑えられています。

 これは、必ずしもおかしな話ではなく、企業型確定拠出年金制度を設けたことにより、それまでの退職金制度が変更されたと推察できます。

 従来の退職金は、一元的に管理・運用された後、退職時に「一時金」として受け取ることもできれば、「年金」として分割して受け取ることもできました。

 しかし、企業型確定拠出年金制度を採用したことで、従来の退職金制度を、新たな退職金規定による「一時金受取」部分と、DC(確定拠出年金)による「年金受取」部分とで二元的に管理・運用するようになり、このような老後の生活保障になっているというわけです。

 

 ここで注意したい点は、親世代の感覚で退職金を考えてはいけないということです。

 1970年以降生まれの私たちの親世代は、一般的に、退職金は一時金として支給されるものというイメージがあります。

 だから、住宅ローンの残債を退職金で一括返済しましょうとか、退職一時金を活用し、老後の住替え資金やマイホームの建替え資金の原資にしましょうと謳われていました。

 しかし、現在、企業の間では、確定拠出年金制度が採用され、これを受けて、退職金規定が書き換えられています。

 親世代と同じような感覚で退職金をあてに老後の生活設計を組み立てようとすると、受け取るはずの一時金が思ったよりも少なかったという状況に遭遇する可能性があります。

 

 このような中、②と③のように、企業型確定拠出年金制度において、事業主と従業員の双方で掛け金を拠出し、老後の生活資金を補てんする「年金」を準備できるようになっています。

 ここで求められることは、「老後の生活資金の計算」です。

 ①で見たように、退職一時金の額が制限されるようになりました。

 一方で、企業型確定拠出年金の掛け金を従業員自ら拠出できるようにもなっています。

老後の生活資金をいくらぐらい準備したいか

 これを真剣に考えておく必要があります。

 老後の生活において、収入になるのは、おそらく今後、「公的年金」と「確定拠出年金」が一般的になるでしょう。

 企業によっては「確定給付型年金」もあるため、この3つをもって老後の収入と考えておく必要があります。

 まず、これらを毎月、毎年、いくらぐらい受け取ることができるかを試算します。

 

 そして次に、「老後の生活支出」です。

 子育てはとうに終わり、夫婦ふたりの生活で、毎月、毎年の支出がいくらぐらいになるかをあらかじめ確認しておく必要があります。

 特に核家族の場合、老々介護など在宅介護にかかる介護費用や、長期優良住宅を購入したことによるマイホームの対策資金(リフォーム・リノベーション・住み替え・子どもへの財産の移転・空き家対策など)を盛り込んでおくことが必要で、通常の継続的な生活費も含め、月々の、毎年の家計支出を割り出します。

 

 こうしたうえで、収支がどうなるかを見定めていきます。

 収入>支出の場合は、家計は黒字になり、純利益が出るため、老後の生活は比較的安定しやすいでしょう。

 しかし、収入<支出の場合は、それまでの貯蓄・運用分を取り崩したり、退職後も働いたりといった選択肢も想定しておく必要が出てきます。

 

 これらのことを考えたうえでの「ライフプラン年金」です。

 冒頭でもお伝えしたように、企業型確定拠出年金制度では、会社が掛け金の一部を拠出し、また従業員も掛け金を拠出するという「マッチング拠出」の方法が採られるケースが増えています。

 今回のケースでは、事業主の掛け金拠出額が基本給の5.0%、企業内に確定給付年金制度も設けているため、企業型確定拠出年金の掛け金の拠出限度額が27,500円となっていることから、従業員が拠出できる掛け金は、27,500円−事業主の拠出分となります。

 ライフプラン年金では、まず、「ライフプラン支援金」という名目で給与として支給されます。

 この金額をそのまま給与で受け取るか、企業型確定拠出年金の掛け金として拠出するかを選び、仮に企業型確定拠出年金の掛け金として拠出する場合、毎月いくらを年金原資に充てるかを決めていきます。

 

 この段階でひとつ、家計内に問題が発生しています。

 特に子育て世帯ですが、お給料として支給されているライフプラン支援金は、給与が増額されたわけではなく、ライフプラン年金の支度金となっているため、ライフプラン支援金を企業型確定拠出年金の掛け金として拠出すると、毎月の家計収入が減るという問題です。

 このようなことから、お給料としてもらったライフプラン支援金を

A.そのまま給与として受け取り、収入としてカウントする

B.一部を企業型確定拠出年金の掛け金に充てる

C.全部を企業型確定拠出年金の掛け金に充てる

というように、使い道を検討する必要が出ています。

 ポイントは、「今」か「先」かです。

 目先の家計を重視するなら、お給料としてそのまま受け取ることを選ぶでしょう。

 逆に、年金収入を増やしたいなら、一部、または全部を企業型確定拠出年金の掛け金に充てることが考えられます。

 

 老後の生活資金を見える化するご相談では、おおよそ、この問題に直面します。

 子育て世帯にとっては、これからお子さんにかかるだろうお金を優先する必要があるため、毎月の収入を減らし、老後のお金を貯めるという決断が難しいご家庭もあります。

 反面、比較的収入が多く、生活支出を差し引いても、なお資金的に余裕があるというご家庭では、掛け金を限度額いっぱいまで拠出した方がいいと判断するでしょう。

 これらはすべて計算によって導き出すことができますが、確定拠出年金制度への理解が依然として満たされていないと感じる今のような状況では、このように家計簿内におけるお金の流れの変化を見つけ出すことは、専門家でもない限り容易でないかもしれません。

 

 1970年以降生まれの私たちにとって、定年退職の年齢がすでに書き換えられました。

 公的年金の受給年齢は60歳から65歳に引き上げられ、それにともない、賃金カーブも、退職金規定も、そして導入件数が増えている確定拠出年金制度も含め、老後に向けた生活設計(リタイアメント・プラニング)の考え方も大きく様変わりしています。

 だからこそ、冒頭でお伝えした就業規則や給与規定、退職金規定、企業型確定拠出年金規約について読んでおく必要があると感じています。

 生活設計自体がより複雑化している現代、私たちは、自分たちの未来をカタチにするために、必要なことを知り、自ら考える力を養うことが求められているのではないでしょうか。

 

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