長期投資一本の危うさと自己責任論について。
本当によくわからないことがあって、今の世の中は、何かと「自己責任」という言葉を多用するように思います。
自己責任は、確かに自分のことは自分でなんですけど、日常会話の中で責任の範囲についててんで話がされないですよね。
たぶんですけど、これについて自分ではっきりさせないと、いわゆる「自己責任論」って本来成り立たないような気がします。
ここ近年、確定拠出年金やつみたてNISAが少しずつ当たり前になってきていますが、ほぼ毎回のご相談でこれらのジャンルに遭遇します。
老後のお金なんかを公的年金の他に準備する方法というか、制度として活用されていますが、やってることは資産運用なんですよね。
制度上は税金が優遇されるといえども、決して守られているというわけではありません。
なので、自分で判断して、決める。
これが、いわゆる「自己責任の原則」ってやつなんですが、資産運用について、相場について、マーケットについて、それなりのレベルで理解してないと自己責任なんて成立するわけないじゃんって思うんですけど、どうなんでしょうね。
問題は業者の姿勢と個人の振舞いなんですが、その間にかなりのギャップが存在しています。
ここ近年、リーマンショック以降、株式市場などが上昇し続けていて、さも資産運用を長期的に行っていれば老後はより豊かになるといった印象を持っている方が多いように見受けられます。
これを後押ししているのが国の制度だったり、金融機関の姿勢だったりするわけです。
確かに、株は上がっているし、国も確定拠出年金やつみたてNISAなんかを維持・発展させるために資金をかなりつぎ込んでいるため、マーケットが結果として後押しされることにつながったりしているわけですが、個人の理解とこのような制度や姿勢に大きな乖離があって、これをどう穴埋めすればいいか、本当によくわからないというのが正直な感想です。
今日の面談でもどうしたものかぁと悩ましく感じたんですが、確定拠出年金をやっていて、つみたてNISAもやっていて、外貨建ての保険もやっていて、コロナショック後のマーケットの波に乗って利益が出ているのはいいんですが、この中身の話で盛り上がらないというか、この中身についての理解がほとんどないため、金融・経済の話にならない・・・。
要は、穴を埋めようと思ってもなかなか埋まらないんですが、埋めようと思うと、どうしても技術的な知識が必要で、また経験も必要で、これらが一般個人の方にかなり不足しているため、「この状況で自己責任って本当に成り立ってるの?」って大いに疑問を持っています。
まぁ、いわゆる「自己責任論」は資産運用に限った話ではありませんが、この問題の本質は「得られる情報量と情報に対する分析能力」、つまり、インテリジェンスの問題です。
このため、そもそも情報量が少なければ自分で判断することすらできず、だから、今までも、そして今でも言われている「自己責任論」なんて成立するわけがないって話なんですが、「難しすぎるよ、この問題」ということでいささか苦慮しています。
で、資産運用についてどう話したらわかるかなぁって、最近、またごにょごにょ考えているんですが、やっぱりここだよなぁということで、投資スパンの話をしていきたいと思います。
以前も軽く似たような話をしたような気がしますが、まず、「長期投資のみっていうことに疑問を持ちましょう」という点です。
例えばね、銀行に行ってつみたてNISAを勧められました。
今日のご相談者さんは千葉銀に行ってってことでしたが、このケース、案外多い傾向があります。
で、老後のお金をどうしたらいいかでつみたてNISAを勧められたわけですが、これって暗に「長期の資産形成なのでつみたてNISAですね」ってすぐさま言われたってことになります。
この瞬間、言われた方としては、「長期=つみたてNISA」ということで一瞬にして刷り込まれますよね。
この結果、資産運用は長期でするもんだとなってしまいます。
まぁ、別に間違いじゃないんですが、疑問を持ってもらいたいんです。
20年後のことわかるの?って。
人類の紡ぐ文明は成長・発展していくんだから、株式市場なんかの資産市場も拡大していくって発想はわかるんです。
でも、そこが重要なんじゃなくて、「自分で何をもとにどうその発展を結論付けるの?」ってことなんです。
これがなければ、仮にその結論が正しかったとしても、やっていることは博打と同じなんです。
だって、理屈がないんですもん。
上に行くか、下に行くか、右に行くか、左に行くか、自分で情報を手繰らず、考えず、判断せずなら、単にその一点に賭けていることになってしまうので、博打と同じなんです。
別に確定拠出年金やつみたてNISAについて批判しているわけではないんですが、兎に角、資産運用は疑問の連続と想像の連続、想定の連続といった反復行為なので、これがリスクを低減させるわけですから、これをしないと損失を被る可能性は本来高くなるんですが、ここまで多くの方が至っていないのが現状です。
資産運用は、投資スパンで考えると、
短期⇒中期⇒長期
という積み重ねで成り立っています。
要するに、短期の動きが中期の動きを生み出し、中期の動きが長期の動きを形作る。
めちゃめちゃ当たり前のことなんですが、先ほどの例でいうと、いきなり長期投資ですよね。
それを銀行側がいきなり個人の方に勧めてくる。
もうよくわからんです。
例えばね、天気予報で、最近では全球の雲の動き、日本広域の雲の動き、日本付近の雲の動き、局地的な雲の動きといった感じで、雲の移り変わりが観察できるようになっています。
長期投資一本で資産運用をする人っていうのは、いわば、全球の雲の動きだけを見て将来こうなるって予測するわけですから、わかるわけないじゃんって思います。
私たちは、普段、「関東地方の雲の動きは?」で、「明日、雨降るかな」、それとも「晴れるのかな」と判断します。
つまり、私たちが把握できる情報がまずあって、それが自分の頭の中でイメージできるから判断を下すことができるわけです。
これで、雨の予報だったのに傘を持って出かけず、びしょ濡れになったなら自己責任だよねってなりますけど、全球の雲の動きを見て傘なくびしょ濡れになったのなら、果たしてそれは自己責任になるのでしょうかって話なんですよね。
なので、長期投資がいかに博打性が高いかが伝わればいいんですが、ここからは少しチャートでこの意味について考えていきたいと思います。
○日経平均株価指数
これは日経平均株価指数の1分足チャートです。
いきなりテクニカルな話になってごめんなさいですが、そもそも資産運用ってチャートを見てないとできるわけがないんです。
なぜならば、今、自分がどこにいるかの現在地を知る必要があるからです。
これを知らなければ、これからどこに行くかすら見えないですよね。
だから、ニュースなんかを見たり、聞いたりするだけでは、そもそもマーケットは理解できないんです。
で、これが日経平均株価指数の1分足チャート。
1分足チャートっていうのは、1分間で日経平均株価指数がどう動いたかを示したものです。
1分ですよ、1分。
投資スパンとしては超短いです。
ちょっと結論をいうと、
1分足チャートは、1時間の値動きを見るために使う
ってことなんですが、要は、「1時間後、天気は晴れかな、雨かな」を探るために使うものです。
このチャート、慣れてくると、ぱっと見で「目先、下がるよね」になるんですが、その根拠は波形にあります。
ここでは波形の話をすると難しくなってしまうので今回は省きますが、チャートの下にあるMACDっていう指標を見てください。
○日経平均株価指数
水色の線とオレンジ色の線がありますよね。
この使い方は、MACD(水色の線)がMACDシグナル(オレンジ色の線)を上回ると上昇、下回ると下落となります。
直近では、MACDがMACDシグナルを下回ってデッドクロスしているため、目先、一瞬、値を下げるだろうと推測できます。
もうひとつ、MACDの下にあるRSIという指標を見てください。
紫色の帯が中央に描かれていて、その上限が70、下限が30なんですが、見方としては、上限の70を超えると売りシグナル、下限の30を下回ると買いシグナルが点灯します。
点灯といってもピカピカ光るといった文字通りの意味ではなくて、そういったサインというか、判断の材料になりますという意味です。
これらの指標は、もうちょっと突っ込んだ使い方をするんですが、とりあえずこの基本に留めておくとして、要は、1分足では1時間後どうなるかを判断するのに使いますということだけ認識してみてください。
さぁ、この積み上げが次の15分足チャートです。
○日経平均株価指数
黄色の楕円で囲った部分がその日の15分足の動きですが、15分足の場合、おおよそ数時間後の動きがどうなるかを予測するために使います。
MACDは先ほどの1分足とは違いますよね。
RSIも同じく違います。
両方とも、ぱっと見、数時間後は上がるだろうと判断できます。
1分足が積み上がった15分足として見ると、答えは逆なんですね。
これが物語っていることは、目先(1分足)は下がるけど、その後は、もうちょっとしたら上がることを言っています。
では、時間足ではどうでしょうか。
○日経平均株価指数
時間足は、どちらかというと、「明日、どうなるか」を見るときに使います。
1分足はとりあえず1時間後、15分足は数時間後、時間足は明日。
厳密な期間の目安があるわけではありませんが、そんな感覚で捉えてみてください。
同じくMACDとRSIについて見てみると、「ぱっと見、上げるよね」といった判断です。
どうですかね、慣れてきましたか?
時間足では、MACDがMACDシグナルをあと少しで抜ける、つまり、ゴールデンクロスが実現されそうなタイミングです。
なので、ここでは上げ確定ってわけではありませんが、30を下回っていたRSIが40を抜けてきた入るため、どちらかというと上げシグナルと判断していきます。
明日の天気予報に使うのが時間足って感じですかね。
なので、いわゆるデイトレをする場合は、これら3つの足がメインになってきます。
でも、一般的にチャートを見るときは日足を使っていきます。
毎日、何時間も、パソコンやスマホに張り付いて値動きを確認するなんてできないですよね。
なので、デイトレをしない人にとっては日足からが見るべきチャートといえます。
日足の次は週足、週足の次は月足です。
ということで、日足を見ていきます。
○日経平均株価指数
日足は、今週とか、来週とか、どちらかというと週単位でどうなるかを予測するために使います。
1分足、15分足、1時間足と比べると、ぐっと期間が長くなりましたね。
MACDを見ると、ん~って感じです。
RSIも微妙。
これだけの情報では、どっちに振れるかはわかりません。
こういうときは、他の指標や報道も確認する必要がありますが、先週末のNY市場を見ると、おそらく日経平均株価指数は一時的に値を戻すと思います。
少し話が脱線しましたが、とりあえず、日足は今週、来週どうなるかを見るために活用していくものと考えてみてください。
さぁ、なんとなくわかってきましたよね。
私たちが普段よく耳にする、「今日の日経平均株価指数は前日比○○円高の○○円でした」って報道では、結局、10年後とか、20年後は予測できないんです。
当たり前ですが。
ということで、さらに長めのチャートを見ていきます。
週足です。
○日経平均株価指数
なんか全体的にぐっとチャートが長くなりましたよね。
これは、週単位の値動きを示しているため、先ほどの日足でいうと、1週間を1日に直したものというイメージで考えてください。
左の方にある山はバブル時の高値です。
そして、右側にある今の動きがコロナショック後の戻り相場を示しています。
週足の場合、一気に投資スパンが長くなりましたよね。
どれぐらい先の予測に使えばいいのでしょうか。
3カ月先ぐらいです。長くても半年です。
それ以上先を見ようとするとブレます。
一応、以前のブログでも少し言及しましたが、日経平均株価指数の周期は、3年3ヶ月でワンサイクルを形成しています。
この意味は、下値から次の下値までの間が3年3ヶ月ということです。
なので、これを前提に週足で観測してみてもいいですが、少し長すぎるため、MACDやRSIで判断することを前提に3ヶ月や半年といったスパンで考えてみることをお勧めします。
MACDは上昇基調ではありますが、そろそろデッドクロスといったところでしょうか。
RSIは80の手前であるため、下落シグナルが点灯しています。
これを先ほどの日足と絡めて考えると、日足レベルでは買戻しが入るが、週足レベルでは依然として売り優勢となります。
なので、そう遠くないうちにまた急落が起こる可能性があるねと判断することができます。
で、月足です。
○日経平均株価指数
月足レベルになると、MACDは上昇トレンド、RSIもやっと70に届いた辺りです。
この意味は、「数年後は上がってるよね」ってことなんですが、この数年をどう捉えるかです。
日経平均株価指数の中期サイクルは3年3ヶ月で下値をつける傾向があるため、日経平均株価指数の場合、この月足レベルに中期サイクルである3年3ヶ月を適用していきます。
そうすると、次の下値をつけるタイミングが2022年3月であるため、おそらく年内には天井をつける可能性があると見て取れます。
資産運用の予測なんて、せいぜいこれぐらいの未来予測なんです。
これに他のテクニカル分析を絡めて、さらに長めの予測を行ったりするんですが、10年先、20年先なんて読めるわけないんです。
一連のいわゆる「足」を見てもらって気づいたと思いますが、1分足が1時間後を予測し、15分足が数時間後を予測し、1時間足が明日を予測し、日足が今週・来週を予測し、週足が3ヶ月・6カ月後を予測し、月足が数年後を予測する。
だから、短期の積み上げが中期を形作り、中期の積み上げが長期を形作るんです。
裏を返すと、いきなり長期から入って相場を見るなんてことは不可能なわけです。
あえて言うならば、10年後、20年後の世界をどう読むかで考える場合、最も外枠にある世界情勢、例えば、アメリカの戦略や中国の戦略を見極め、それらに伴い世界がどう動くかを読むとか、その枠組みの中でアメリカがどのような経済政策を打ち出すかとか、そういった次元で捉えるしか、原則、方法はありません。
こっちの方が余程難しいんですが、なのにいきなり長期積立投資でいっちゃうわけですから、これは初心者の一般個人の方が悪いというわけではなく、そう誘導している国や金融行政、金融機関などに問題があるような気がします。
そこまでわかるように話をしてもらえれば一般の個人の方も資産運用をしやすくなると思うんですが、そこまで理解できて初めて、短期投資(1年間)はどの銘柄でどのように運用すべきか、中期投資(5年未満)はどの銘柄でどのように運用すべきか、長期投資(10年超)はどの銘柄でどのように運用すべきかといった、「資産の分散」と「時間の分散」がようやく図れるようになります。
例えば、先ほどのチャート足でいうと、短期(1年)なら「まだしばらく上げるが天井を迎えると一気に急落する可能性が高い」と予測するなら、「短期投資はとりあえずまだ積極的に行っていこう、そして天井を迎えそうになったらポジションを変えてみよう」といった判断になるかもしれませんし、中期投資(5年未満)なら「次の大きな下値をつけた後、もしくは、つけそうな辺りで買い戻してみよう」、そして、長期投資の場合、中期×2=10年なので、それぐらいのスパンで考えるなら、「現段階では不透明だから、どちらかでいうと、金利重視で債権を買っておこう、維持しておこう、金を持っておこう」といった判断でも良いかと思います。
後はお好みで、長期投資しかやらない、中期投資しかやらない、短期投資しかやらないといった決め打ちをしても良いとは思います。
いきなり、老後が不安だから長期一点張りっていうのは、何の理屈もなく、何の情報もなく、何の判断もなく投資というギャンブルを行っていることになってしまうので、その結論に至るまでの理屈を自分自身でどのように組み立て納得できるか、これが資産運用の世界での自己責任ってことなんです。
でも、国も金融機関も、その間のことを教え、伝えるのは難しく、なかなかそこまでしてくれないのが現状です。
というか、不可能です。
なので、自分としてはどうするか。
習うより慣れろしか方法はないんですが、安全志向が高まる中、生活を営むうえでも忙しく、時間がないことを考慮すると、この自己責任の原則に一歩踏み出すことができる人でなければ、たぶんですけど、資産運用って、結局、お金を増やすか、減らすかだけの道具に過ぎなくなってしまいます。
資産運用の本質は、情報をつかみ、分析し、活用するといったインテリジェンスにあります。
よく言われるマネーリテラシーというのは知識習得の段階の話です。
なので、マネーリテラシーを伸ばすと、必然的に考える力が身に付き、いざ行動に移す段階で情報を活用することができるようになるため、マネーリテラシーは最初の入り口として必要不可欠なんです。
そして、習うより慣れよ。
行動しながら知識を習得するというやり方が時間がない人にとっては一番効率的なので、やらない限り実力は身に付きません。
この点を実務を通じて少しずつ伝えていければいいと思うんですが、なかなか道のりは長く、試行錯誤をしながら寄り添っていくしかないだろうなぁと考えています。