高所得者向けの児童手当「特例給付」。給付額が減るってことが問題ではなくて、一般のご家庭も含めて、想定されている家族モデルが変わってきてることの方が問題です。
先日、国が、児童手当の特例給付について、縮小か、廃止、もしくは、所得制限のカウントを世帯主1人当たりの所得基準から一世帯当たりの所得基準に変更することを検討しているという報道がありました。
かなり物議を醸しそうな話題ではありますが、ファイナンシャル・プランナー事務所を運営している自分としては、「えっ、また変わんの? 」と思ってしまいました。
新しい制度、面倒くさいんですよね。
報道記事としてはこれです。
実際のご相談では、ほぼ必ずと言っていいほど出てくる児童手当ですが、子育て世帯のお母さん方は制度の内容を知っている方が多いのではないでしょうか。
たまにお父さんもこの制度を理解しているというご家庭に出会うことがありますが、それはそれですごいなと思います。
ちょっと内容をおさらいしてみますね。
○3歳未満 15,000円/子ども1人当たり
○3歳から小学校卒業まで 10,000円/子ども1人当たり
○中学生 10,000円/子ども1人当たり
まずこれが基本です。
ただし、3歳から小学校卒業までの子どもに限り、第3子以降は子ども1人当たり15,000円に増額されます。
記事で言及されているのは、この基本形ではなく、「特例給付」という制度です。
所得制限限度額以上の場合、一律5,000円/子ども1人当たり
つまり、一定の所得限度額以上の場合、15,000円とか、10,000円でなくて、子ども1人当たり一律5,000円の支給になりますって制度です。
ちなみに「所得制限の限度額」はこんな感じになっています。
内閣府からの抜粋ですが、わかりにくいかもしれませんので少し解説しますね。
左側の扶養親族等の数ですが、ざっくりいうと、税法上の同一生計配偶者と子どもという意味です。
税法上の同一生計配偶者っていうのは、単純に所得税制において配偶者控除の適用を受けている妻・夫という意味です。例えば、専業主婦・主夫やパートなどで働いていて年収103万円以下の配偶者を指します。
こんな感じで見ていくと、例えば、奥さん:パート、子ども1人のご家庭では扶養親族等の数が2人になります。
そして、旦那さんの年収の目安が917.8万円以上、所得制限の限度額が698万円以上の場合、児童手当が子ども1人当たり一律5,000円になります。
収入と所得の違いは、これも説明するとややこしくなるんですが、旦那さんが会社員のご家庭の場合、一般的には、
年収-給与所得控除-所得控除-各種特別控除=年間所得
のようになるため、年収と所得は別物として考え、なるべく所得で確認するようにしてください。ちなみに所得は前年の所得が基準になります。
このようにおさらいしていくと、一般的には、多くのご家庭で特例給付は適用されていないことがわかります。
そりゃそうですよね、特例給付は高所得世帯向けの制度なので。
これがですね、縮小、もしくは、廃止することを国は検討しているそうで、また、所得の算定対象を世帯主でなく、一世帯当たりに変更しませんかということが話し合われているそうです。
なので、高所得者層のご家庭では「なんじゃそりゃ~」ってブーイングが沸き起こると思いますが、多くのご家庭ではどこ吹く風の話なので、育児・子育てネタとしては炎上はしないように思います。
でもね、この背景にあるのが、記事にも書かれていますが、「世帯全体の年収で所得制限の基準を判断しないのは不公平だ」という声だそうで、つまり、共働きの夫婦が増えている中で、世帯主基準でなく、一世帯当たり基準にしないのはおかしいという声が上がっているそうです。
ん~、ちょっとよくわかんないですが、要はこういうことです。
共働きで高所得世帯が増えてるんだから、児童手当はそのような家庭には厳しく制限をして、もっと必要な世帯に対して給付を厚くするべきだ~
まぁ、確かに一理はあるんですが、気持ちもわかります。
でも、この記事を読んで真っ先に思ったことは、
そういう声上げちゃってると、これからは、いろんなところでこの流れになると思うよ?
ということです。
国が想定しているこれからの家族モデルは、
夫婦共働き、子ども1人世帯
です。
良くて子ども2人になればいいなぐらいな感じなので、このような世帯モデルにカチッとはめ込むような政策を打ってくることは容易に想像できます。
特例給付の改正はまさに好事例といえるでしょう。
ライフステージで考えると、国が想定している人生設計のモデルを想像しやすくなるんですけど、例えば、
○シングル期:なるべく早く結婚しろ!晩婚は控えよ!
⇒だから、婚活支援やら、新婚生活に対する支援を打ち出しています。
シングルで人生をずっと過ごしてしまうと、高齢者になった時に何かと費用がかかるだろうが~!
○新婚期:結婚したら子どもを産め!でも、夫婦で働け!
子どもを産まないと人口の維持ができないだろ!それでも、人口減少で収入は減っていくんだし、超高齢化で老後の年金が足りなくなるんだから夫婦で働け!
⇒働き方改革やら、男性の育休取得の義務化、社会保険料の適用対象の拡大、定年の延長、公的年金の支給開始年齢の後ずれ、iDeCoなどの制度改正
などです。
こういった枠組みの中に「特例給付」を巡る制度改正の議論が入っています。
なので、本当は、共働きの高所得者層だけに向けられている話じゃなくて、むしろ、新たな人生設計の枠組みの中で、国が想定している理想的な家族モデルにはめ込まれようとしている高所得者層以外のご家庭の問題でもあるんです。
だから、経済的に裕福なご家庭は、特例給付の改正が入るかもしれないという報道を聞いても「マジで~」って思わずに、また、それ以外のご家庭は、特例給付の改正が入るかもしれないという報道を聞いて「そうだ、そうだ」と思わずに、「自分たちに課せられそうになっている家族モデルっておかしくない?」って考えて議論を掘り下げていく方が正しいアプローチのような気がします。
特例給付は子ども1人当たり一律で5,000円であるため、年間にすると60,000円に上ります。
この金額を少ないと感じるか、多いと感じるかは、人それぞれの金銭感覚ではありますが、この話は、お金の話というよりも、これからの人生設計がすでにロックオンされにかかっているということなので、時代の変化をキャッチし、我が家としてはどうすべきかを考えた方がいい話だったりします。
お金で片づける風潮になっていると感じることは多いですが、お金に縛られるとロクなことはないので、何が本当に大切なかを見極めながらニュースを読んでいくようにしましょう。