FP OFFICE 海援隊|1970年以降生まれの「ライフ&マネー塾」

これからの時代、変わりゆく常識を少しだけ早くキャッチし、人生に活かしてみる。

緊急経済対策の予算とGDPの下支え効果。資産運用をするうえで知っておきたい日本の現状。

f:id:fp-office-kaientai:20200430200657p:plain

 2020年4月30日(木)、新型コロナウィルス感染症の拡大にともなう緊急経済対策にかかる補正予算がようやく国会を通過しました。

 これから、いよいよ予算の執行が始まりますが、今回は国が想定している経済効果について触れていきたいと思います。

 まず前提として、日経新聞の記事を参考に予算規模を確認してみましょう。

www.nikkei.com

 この記事を読むと、補正予算を含む緊急経済対策の「事業規模」は117兆1000億円となっています。

 事業規模とは、緊急経済対策という事業で準備したお金の総額です。

 報道では、よく「過去最大!」なんて言われてますが、準備したお金が、実際、予定通り活用されるかどうかは不確かであるため、経済対策の効果を考えるときは事業規模ベースで見るようなことはしません。

 いわゆる「真水」部分がいくらぐらいかで判断していきます。

 真水部分というのは、国民や会社が実際に使うだろうと思われる分の予算です。

 今日、成立した補正予算は25兆6900億円ですが、この中身を見ると、ほとんどが真水といえ、この部分については、実際に国民の手元にお金が行き渡る可能性が高いため、経済効果としては期待できるのではないでしょうか。

 テレビや新聞などでも、このようなことは以前から少しずつ指摘されていて、初めてではないでしょうか、予算についてのこのような考え方が国民の間で広がるようになっているのは。

 このように、国の予算が一国の経済にどれだけの効果を及ぼすのかということが意識されるようになるのは良いことではあります。

 

 今回の緊急経済対策は、そもそも、その中身が「緊急支援フェーズ」と「V字回復フェーズ」のふたつに分けて組まれています。

f:id:fp-office-kaientai:20200430204124p:plain

内閣府より

 これについても、緊急事態宣言が出された後、「V字回復の分まで、今、用意する必要があるか」と問題視されていましたが、このような中身だったからなんですね。

 目先では自粛を要請したため、経済が急激に落ち込み、事業者にとっては経営だけでなく、生活においても死活問題となっています。

 このため、危機管理という点で、まず、緊急支援フェーズにおいて大規模に予算配分をし、その後、緊急事態宣言が解除され、経済の立て直しを図るタイミングでV字回復フェーズにおける予算の執行をすればいいという意見が多くありました。

 それでも、あまり中身を変えず、今日、緊急経済対策が国会を通過しました。

 スピードが求められるため、このような中身であっても、早くやらないよりはマシということで決める必要があったのでしょう。

 

 それでは、国が想定している経済効果はどれぐらいでしょうか。

f:id:fp-office-kaientai:20200430205932p:plain

内閣府より

 緊急経済対策の「インパクト」と表現されていますが、他国との比較もあり、このようにみると、さも、日本は劣っていないような印象を受けます。

 でも、内閣府の同じ資料にある次のページを見ると、経済効果としてはあんまりないじゃん!ということがわかってしまいます。

f:id:fp-office-kaientai:20200430210258p:plain

内閣府より

 緊急経済対策による経済効果として、GDPを下支え、かつ、押し上げる効果がどれほどあるかが試算されています。

 令和2年度予算と補正予算を合わせた分で経済対策としての効果が試算されていますが、前者の効果を1.1%程度、後者の効果を3.3%程度とし、合計で実質GDPの下支え・押し上げ効果を4.4%程度としています。

 令和2年度予算分を入れてしまっているのは試算上のマジックといえますが、それ以上に緊急経済対策分として、今日決まった補正予算分も含め3.3%程度しか実質GDPに寄与しないという推計を示している点は驚きです。

 リーマンショックを優に超えてしまっている景気の悪化にもかかわらず、手当されている予算が少ないため、実質GDPを下支える、もしくは、押し上げる効果がこの程度しかないというのはかなり問題があるような気がします。

 緊急経済対策における補正予算の内訳は、次の資料で確認できます。

f:id:fp-office-kaientai:20200430211341p:plain

f:id:fp-office-kaientai:20200430211514p:plain

内閣府より

 合計で25兆6900億円ですが、今まで見てきたとおり「緊急支援フェーズ」と「V字回復フェーズ」の2部構成で組まれていることがわかります。

 これで見ると、今、喫緊で必要とされる分は(1)と(2)で、合計約21兆3000億円です。

 これに(5)の予備費分を加えると22兆8000億円。

 結局、真水と考えてしかるべき部分は少なく見積もってこの程度と見ることができます。

 これらの金額は、国が支出(歳出)する費用です。

 それでは原資となる財源は、どこから引っ張ってきたのでしょうか。

f:id:fp-office-kaientai:20200430212339p:plain

財務省より

 左の欄が歳出分、右側が歳入、つまり、収入です。

 歳入欄には公債金と書かれていますが、これはいわゆる国債です。

 この金額が25兆6914億円。

 そして、それと同じ金額が歳費として支出されていきます。

 この資料で重要なのは、国債の発行規模が25兆円程度となっている点です。

 これを持って財政出動したと言っているわけですから、先ほどの実質GDPの下支え・押し上げ効果の資料と辻褄が合います。

 

 私たちは、普段、日常生活を送っている分には、国の予算がどれぐらいの規模で、経済に対してどのような影響を与えるかを意識しながら生きていません。

 しかし、資産運用をするうえでは、実をいうと、このような知識は必要といえ、日本の現状と他国との比較のもと、為替や金利がどうなるかを予測していくことが必要になってきます。

 アメリカは、新型コロナウィルス感染症にかかる大規模な経済対策の予算のほとんどが真水と言われています。

 反面、日本では、初めに言われていた30兆円に満たない金額が真水と言われています。

 その結果、米ドルと日本円の関係性はどうなるか。

 ドルの流出量が日本円の流出量と比べて断然多くなることから、日米の為替は円高・ドル安基調を描きやすくなります。

 また、金利面では、アメリカにしろ、日本にしろ、国債を買い取る政策を実施するため、ゼロ金利状態になりますが、それまで少し高かったアメリカの金利が下がっていくことになるため、日本との金利差が縮小することで、これについても円高・ドル安に為替が振れやすくなります。

 それでは、為替が円高に傾くとどうなるか。

 そして、株価にどのような影響を及ぼすのか。

 こんなことを考えていくのが資産運用の面白さです。

 資産運用は複雑な連想ゲームです。

 基礎知識がある程度ないと、他のマーケットプレイヤーと同じ土俵で戦うことは必然的に難しくなりますが、今、一連のコロナ予算を巡り、国民に予算の意味が広く知れ渡るようになりました。

 予算について知るようになると政治の見え方も変わり、結果として、経済の見方にも変化が生まれます。

 関連していることとして、今後の参考になれば幸いです。

 

FP OFFICE 海援隊 Webサイト

fpofficekaientai.wixsite.com