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フィデューシャリー・デューティー。金融業界の一大改革とは。

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 フィデューシャリー・デューティー(fiducialy duty)。

 受託者責任と訳されますが、信任を受けたものが履行すべき義務という意味です。

 以前のブログでも少し紹介しましたが、現在、金融庁は、「国民の安定的な資産形成」と「顧客本位の業務運営」のふたつの観点から金融業界に対し一大改革を迫っています。

 これはなんなんでしょうかね。

 3年ぐらい前でしょうか。

 「保険の窓口」の脱税事件に端を発した、保険業界全体を巻き込んだ保険業法の改正。

 保険の窓口が、自分に都合のいい保険会社を中心に保険商品を販売していたことが金融庁から不当な販売方法と指摘され、保険の代理店業界自体がブラックであるという実態解明にまでつながり、保険業法の歴史的な大改正が行われました。

 個人的にはここら辺からつながっているんだろうなと思っていますが、今、進んでいることは、

顧客利益の保護の「徹底」

です。

 20年前、国は「貯蓄から投資へ」のスローガンのもと、家計に眠っている金融資産をより効果的に活用し、金融市場の活性化を試みました。

 金融の自由化から始まり、株式の手数料自由化、保険や投資信託の銀行窓販、保険業法の大改正、確定拠出年金制度(日本版401k)、NISA(少額投資非課税制度)、ジュニアNISA、積立NISA、そして確定拠出年金制度の第三号被保険者利用に至る現在まで、様々な改革が実行されてきました。

 すべてに共通する点は「顧客の利益を保護すること」ですが、ここ最近の動きは、特に資産形成に軸足が置かれています。

 スローガンであった「貯蓄から投資へ」は、実際には大きな効果がなく、今の状況を見れば「貯蓄から貯蓄へ」にしかなっていない残念な結果に終わっているように映ります。

 このような現実を受けてなのかは知りませんが、いつの間にか国は「貯蓄から投資へ」のスローガンを捨て、「貯蓄から資産形成へ」と切り替えました。

 “投資”よりも“資産形成”の方がリスクがなさそうな響きです。

 安直かっ。

 

 冗談はさておき、今の金融大改革の1丁目1番地は「顧客の利益の保護」です。

 顧客の利益を保護するとはどういうことなのかというと、具体的には次の5つがポイントです。

①顧客本位の業務運営に関する方針の策定・公表等

②顧客の最善の利益の追求

利益相反の適切な管理

④手数料等の明確化

⑤重要な情報のわかりやすい提供

 簡単に言うと、「金融機関はお客さんのことを思って、真摯に職務を全うしなさい」ということです。

 銀行や証券会社、保険会社などの金融機関は、昔から販売サイドの論理で、お客さんのことよりも自分たちの組織のために業務を行ってきた側面があります。

 バブル崩壊後は特に、金融の自由化により業界再編が起こり、金融機関の経営は常に厳しい競争に晒されてきました。

 少しずつ金利が下がっていく金融情勢。

 銀行にとっては融資業務の伸びが縮小し、証券会社にとっては株式などの販売手数料が減少し、保険会社にいたっては新興の保険会社の台頭もあり契約の乗り換えが起こってしまうなど、常に業務の改善を図る必要に迫られた20年だったと思います。

 このような厳しい環境のもと、銀行は窓口販売(窓販)を通じ投資信託や保険の販売手数料を得ることに走り、証券会社は売りやすい毎月分配型投資信託を積極的に勧め、保険会社は銀行に外貨建の変額保険を扱ってもらうよう手数料率を高く設定するといった、顧客の利益を減らしてしまうような売り方をせざるを得なかったというのが本音でしょう。

 

 今、金融業界が金融庁から求められている点は、

地方銀行のサービス向上

②毎月分配型投資信託など投資信託の商品設計の改善

③外貨建の変額保険の手数料開示

の3つです。

 ①については、地銀の再編が囁かれています。

 銀行業界は、特に地方銀行では、マイナス金利政策のもと収益の減少が目立っています。

 これからもマイナス金利政策が継続されていくと、融資による収益がさらに減少することが考えられ、経営状況が悪化する可能性は高いと言えます。

 このような中、地銀は投信や保険の窓販で生き長らえようとしているんですが、顧客サービスの劣化が指摘され、顧客の利益に反するということで改善が求められた場合、身も蓋もない状況に追い込まれる地銀が出てくることが懸念されています。

 次に②ですが、毎月分配型投資信託は、投信の購入者にとっては、配当金が毎月分配されるのでお得感があるように映り、人気の投信になっていました。

 しかし、毎月配当金が分配されるということは、投資信託の信託財産を毎月切り崩していくことになるので、必然的に資産価値が目減りし、基準価額の下落につながります。

 これも顧客の利益に反するということで、投信の商品設計や販売方法の改善が求められるようになりました。

 ③については、銀行で扱われている外貨建の変額保険(外貨建終身保険や外貨建個人年金保険など)の販売手数料が高いため、この点が顧客の本来得られる収益を圧迫しているということで、販売時の手数料の開示が求められています。

 

 これら①、②、③に共通する点は、

「国民の安定的な資産形成」を妨げている可能性がある

という点です。

 地銀の銀行サービスの劣化は、顧客の資産形成から得られる利益を奪っている。

 毎月分配型投資信託は、購入者が本来得られるはずの利益を始めから損なっている。

 外貨建の変額保険は、銀行への手数料率の高さから考えると、加入者の利益を損ねている。

 つまり、あなたたち金融機関は、国民が、安定的に財産を作り上げていく機会を損ねているんですと、金融庁は言ってるんですね。

 そして、これらを改善するために、顧客本位の業務運営の方針を作成・発表し、顧客の利益を最大限に考えるようにしなさいと金融機関に命令しています。

 

 金融庁は本気です。

 確かに「貯蓄から資産形成へ」は、これからの時代、必要な生活スキルのひとつになっていくでしょう。

 特に、公的年金の支給額が減っている現状を見れば、若い人ほど、若いうちから長く資産形成を行っていく必要があると感じるようになると思います。

 金融庁の森さんが指摘している意味は、まさにここなんですね。

 日本の公的年金制度と国民の老後の生活。

 まずは金融業界から変わる必要がある。

 そう判断したのでしょう。

 金融業界が顧客本位の姿勢を本気で示し、金銭教育を通じ、国民の資産形成をしっかり業務として行っていく。

 これを国が積極的に後押ししますということなんだと思います。

 その典型が確定拠出年金制度やNISAです。

 

 販売サイドの論理。

 確かにこれは、日頃のFP業務の中でも感じることです。

 基本的に、金融庁の方向性と日本FP協会の方向性は一致していますが、今後、顧客利益の保護の高まりとともに、セカンドオピニオンを提供できるファイナンシャル・プランナー(FP)の役割もより重視されてくるようになるでしょう。

 業界全体で解決していくことなんですね。

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