学資保険じゃない。新たに創設されるかもしれない、国の「こども保険」。
今年の3月に「2020年以降の経済財政構想小委員会」により『こども保険の導入』という提言が出されました。
こども保険というと、教育資金を準備するための学資保険を連想してしまいますが、ここでいう「こども保険」とは、少子化対策として国が行う社会保障改革の中に位置づけられている制度です。
少し具体的に見ていきましょう。
今、この国は、「超高齢化」と「少子化」というふたつの大きな問題に直面しています。
超高齢化で年金や医療、介護に必要なお金が増えていくことが予想されますが、同時に出産・子育て・保育・教育など、少子化を改善するための資金的な手当ても求められています。
これからの時代、そんなのおかしい!
ということで、
全世代型社会保険制度
という新たな社会保障制度の枠組みが提唱され、その中に社会保険としての「こども保険」を創設しようという考え方です。
要するに、退職して働かなくなっても、病気になっても、介護が必要になっても、子育てで大変になっても、社会保険制度の仕組みとして国が整えておけば、国民みんなで支えていけるよねということです。
具体的にはどうするの?
厚生年金の保険料は、今年まで上がっていきます。
健康保険料は、どちらかといえば上昇傾向。
介護保険料は、改定のたびに上昇。
こういった現行の社会保険料の伸びを抑え、上げるはずだった保険料を新たに「こども保険料」として徴収する。
こうすることで、「全世代型社会保険」制度を維持・管理することができるとしています。
裏を返すと、年金・医療・介護については給付も抑制し、子育てに対して給付を生みだすということです。
どちらかというと、高齢者に偏っている社会保障制度を子育て世帯に回すことでバランスを取ろうとしているので、これからの時代にはマッチしていくかと思います。
ただ、問題なのは、「こども保険」をどのような形で社会保険制度として成り立たせようとしているかです。
提言の中では、こども保険の制度設計として3つの案が示されています。
①保険料率0.1%案
この場合、財源規模は約3,400億円、こども保険料は「幼児教育と保育の負担軽減」と「待機児童ゼロ」に使われる。
②保険料率0.5%案
財源規模は約1.7兆円、その使い道は「幼児教育と保育の実質無償化」と「児童手当を月25,000円加算」。
③保険料率1.0%案
財源規模は約3.4兆円、「幼児教育と保育の実質無償化」に加え、より踏み込んだ子育て支援策に財源を活用していく。
こども保険の目的は、「子どもが必要な保育・教育等を受けられないリスクを社会全体で支える」ことにあります。
国民みんなで支えていけば、子育て世帯が保育や教育についての経済的な負担を気にすることなく、子どもをちゃんと保育園や幼稚園に通わせることができる。
とても良いことだと思います。
ただ、やはり気になるのは、保険料。
3つの案について、こども保険の保険料負担がどれぐらいなのかが試算されています。
こども保険の保険料は、年金や健康保険と同じく事業主・従業員で折半するとしているので、事業主の方は人件費にどれぐらい影響するのか、従業員の方は家計支出にどれぐらい影響するのかという点でご参考ください。
〔保険料率0.1%案〕
〔保険料率0.5%案〕
〔保険料率1.0%案〕
このように眺めていくと、次のようにまとめられるかと思います。
〔子育て世帯〕
子育てに必要なお金が得られるので、こども保険が新たに創設されても、保険料の負担はそれほど重くない。
〔事業主〕
新設される社会保険制度になるので負担増となり、人件費が増えてしまう。
〔子育て世帯でない世帯〕
保育や幼児教育の必要な児童がいないため、こども保険の保険料はそのまま負担増になる。
社会保障制度は「相互扶助」が基本です。
相互扶助である以上、どうしても不公平感が生じます。
それでもみんなで支え合える社会を築くことができるのか。
もう少し議論が必要なのかもしれません。