トマ・ピケティ流、格差社会時代を生き残るためのライフプランの考え方
1970年以降生まれの私たちは、なぜお金を貯めなければならないのか・・・。
これについて考えるきっかけを与えてくれたのが、私たちと同じく1970年以降生まれのフランスの経済学者、トマ・ピケティ(Thomas Piketty)の著書『21世紀の資本』でした。
彼は、その本の中で、歴史的に「持てる者」と「持たざる者」の経済的な格差の関係がどのように推移してきたのかを膨大なデータから調べ上げ、現在、問題になっている格差社会の解決に向けた提言を行っています。
この本では、世界中で「所得」と「資産(富)」の分配が不平等に行われている(=経済格差)とし、その原因を突き止めるためにこんな数式を用いています。
〔資本主義の第一基本法則〕
α(国民所得に占める収益の割合)
=r(資本収益率)× β(資本所得比率)
〔資本主義の第二基本法則〕
β(資本所得比率)
=s(貯蓄率)÷ g(経済成長率)
パッと見、よくわかりませんよね。
計算してみたら少しわかりやすくなります。
5%(r:資本収益率)×600%(β:資本所得比率)
=30%(α:国民所得に占める収益の割合)
この数式の意味するところは、
国民所得のうち、資本(資産)が生みだしたお金の割合がどれぐらいなのか
ということです。
つまり、この数式の目的は、国民の生みだした付加価値の総額のうち、資本(資産)取引によって生み出された付加価値がどれぐらいなのかを観察することにあります。
こうすることで、国の経済規模に対する「資産家」の資本取引がどれぐらいなのかを探ることができます。
経済格差の原因は、一部の資産家に富が偏っていることにありますが、それでは、なぜ、このようなことが起こるのでしょうか。
パターン①:資産構築・形成
一生懸命働き、お金を貯めた、増やした。
だいたいのお金持ちはこのタイプです。
パターン②:遺産相続
生まれながらにして資産を持っている。
大会社の御曹司や地主の息子タイプですね。
パターン①の人のように、一生懸命働いてお金を貯め、貯めたお金で資産を構築していく人が増えたため、富の偏りが生じている。
もともとパターン②のように親の遺産を相続した人はいますが、パターン①の人が増えているため、パターン②の人が必然的に増え、さらに富の偏りが生じている。
人は通常、働いてお金を貯めようとします。
動機は人それぞれですが、一生懸命働いてお金を貯め、それを元手にさらにお金を増やそうとします。
資本主義経済では、株式や為替、不動産など資本市場が活発に機能しているので、それらを上手く活用し、さらに財産を形成していきます。
増えた財産は、死亡後、遺族に相続され、それらを引き継いだ子息たちは生まれながらにして資産家という構造が生まれます。
ピケティによると、第一次世界大戦まではパターン②による富の格差が顕著だったが、第二次世界大戦後は経済成長によりパターン①の人が増え、結果、パターン②につながっていると指摘し、これらが経済格差の要因のひとつであるとしています。
この問題をどのように解決すればいいのか・・・。
ピケティはこんなふうに言っています。
お金持ちに増税しよう!
簡単に言うとこんな感じですが、要は、お金持ちに対し資産課税や所得税の累進課税を引き上げようということです。
そして、徴収した税金を用い、中所得者層や低所得者層にさまざまな方法で還元していくことで経済成長を促そうと提言しています。
著書では、その最後の締めくくりとして、次のように言っています。
市民たちは、お金やその計測、それを取り巻く事実とその歴史に真剣な興味を抱くべきだと思うのだ。
お金を大量に持つ人々は、必ず自分の利益をしっかり守ろうとする。
数字との取り組みを拒絶したところで、それが最も恵まれない人の利益にかなうことなど、まずあり得ないのだ。
1970年以降生まれの私たちは、この経済格差についてどのように考え、アプローチしていけばいいのでしょうか。
国の経済政策は、振り返ると、ピケティの提言にもとづいた施策を実践しつつも、急速に広がる高齢化社会に直面し、税と社会保険料の引き上げを同時に行っています。
経済成長率(g)=人口増加率+労働生産性上昇率
ピケティの指摘が正しいとするならば、この数式にもとづき、人口減少が予測される日本では、労働生産性を上げることができたとしても経済成長が鈍化していくため、前述した資本所得比率(β)が増加し、国民所得に占める収益の割合(α)は高まっていきます。
つまり、一部の資産家に富が集中しやすくなり、必然的に経済格差の拡大を招いてしまう可能性が高まります。
もし、これがこの国の未来であるとするならば、1970年以降生まれの人が持つライフプランに対する考え方を見直す必要があるかもしれません。
上の図は、ファイナンシャル・プラニングの観点から作成した「格差社会時代を生き残るためのライフプランの考え方」です。
オレンジ色の線は、一般的な賃金形態のもとでの「収入」、薄緑色の枠は「定年前までの貯蓄の累計」、薄紫色の枠は「定年後の貯蓄の累計」を表しています。
一般的なモデルとして、特に、大企業や官公庁にお勤めの方の場合、通常、収入と貯蓄の関係はこのように推移する傾向があります。
これを前提に、格差社会が今後も広がりやすいと仮定するならば、人生設計(ライフプラン)に対する考え方を少し改める必要があります。
なぜならば、日本の場合、高齢化社会により、特に中所得者層においてお金が貯まりにくい環境がより整いやすくなるからです。
ポイントは、家計(お金を貯める)の目的を明確にすること。
目的①「老後の生活資金を準備する」
⇒ 課題)老後の生活資金をいかに準備するか
目的②「子どもに財産を遺す」
⇒ 課題)子どもに財産をいかに遺すか
ライフプランは人それぞれですが、各ご家庭のライフプランに合わせた形でお金を貯める工夫をしていくことで、最終的に「老後の生活資金の準備」と「子どもに遺す財産の準備」を実現しやすくなります。
最後に、現在の国の経済政策は、先ほど挙げたこの数式により動いています。
経済成長率(g)=人口増加率+労働生産性上昇率
①人口を増やすにはどうすべきか。
②生産性を上げるにはどうすべきか。
③結果、この国の経済を良くするにはどうすべきか。
経済学者であるピケティは、「格差社会」を是正するにはどうすべきかをみんなで考えることで、経済成長を実現していこうとしています。
ファイナンシャル・プランナー(FP)として考えた場合、特に1970年以降生まれの中所得者層への提言として、生活設計=ライフプランを再構築することで、結果的に所得が増え、消費が促され、そして貯蓄も生まれる、このような循環をみんなで実現していければと考えています。