FP OFFICE 海援隊|1970年以降生まれの「ライフ&マネー塾」

これからの時代、変わりゆく常識を少しだけ早くキャッチし、人生に活かしてみる。

1970年以降生まれの私たちに敷かれた『1億総活躍社会』というレール。私たちは本当にそれを求めているのだろうかを考える。

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 1970年以降生まれの私たちの前に敷かれたレール。

 『1億総活躍社会』

 これを実現するために、私たちは、すでに目の前に敷かれている、もしくは、これからも敷かれるだろうレールを、知らないうちに歩かされている。

 最近、2020年以降、その後に続く世の中がどうなるか頭の中でぐるぐると回っていて、少し落ち着きがない状態が続いています。

 仮に、この国が『1億総活躍社会』の実現を本当に目指しているとするならば、これから、私たちは、その意味をどのように捉えていけばいいのでしょうか。

 『1億総活躍社会』は、日本国民すべてが活躍できる社会のことですが、男性も、女性も、子どもも、大人も、障害を持った方も、そうでない方も、いろいろな人たちが互いを尊重し、暮らしやすい国を創ることを目指しています。

 本当にそうなるなら、それはそれで素晴らしいことだと思います。

 幸福度は高まり、温かい人間関係の中で、人々が暮らせるようになるでしょう。

 純粋に『1億総活躍社会』を想像すると、このような社会が理想形のように思えますし、そうなってもらえたら楽しいなと単純に思います。

 

 でも、その裏側では、どうしても違った側面が透けて見え、掲げている理想の社会が本当に実現されるのかと疑念を持っています。

 『1億総活躍社会』の実現は、2040年、おおよそ、あと20年後ですが、そこで訪れる、本当の意味での「超高齢化社会」にいかに備えるかという趣旨のもと制度設計がなされています。

 2040年というと、私たち団塊ジュニア世代が65歳以上の高齢者になり、この時点で、超高齢化社会はピークを迎えるといわれています。

 生産年齢人口は、今よりも断然減少していることがすでにわかっていますが、それまでよりも多くなった高齢者を、それまでよりも少なくなってしまった現役世代で支えていくことになります。

 この影響をいかに緩和すべきかの方法論として練り込まれた国家戦略が、まさに『1億総活躍社会』の実現です。

 

 一般的には、掲げた理想に対して実現することが難しいと思われる場合に、「理想と現実は違うんだ!」と言うことがありますが、『1億総活躍社会』の実現では、初めから超高齢化社会への対応という現実があって、それに対して理想を別の言葉で語っているという構図であるため、戦略の組み立てとしては真逆なものになっています。

 このため、個人的には、理想についてはあまり重視せず、個別具体的に方法論について追っていくようにしています。

 

 『1億総活躍社会』を実現する目的が、超高齢化社会のピークにいかに対応すべきかということであるならば、その時点から逆算していくと、自分たちが、今後、何のために、何を、どのようにすればいいかがおのずと見えてくると思います。

 ここが知りたい。

 最近、頭の中でぐるぐると回っていることの正体が、まさにこれです。

 2040年、より少ない現役世代が、より多くの高齢者を支えることになります。

 2040年以降、おそらく、少なくとも20年は、この傾向が続くと思われますが、この間、高齢者の暮らしを支えるのに必要なお金が膨れ上がります。

 この影響を緩和、あるいは、抑制することが『1億総活躍社会』の実現ですが、これを起点に、どのような対策が想定されているかを想像すると、その全貌が明らかになってくると思われます。

社会保障制度の維持

 まず考えられるのは社会保障制度の維持でしょう。

 高齢者の生活を保障する必要があるため、現行の社会保障制度を続ける場合、それを壊さないように制度が少しずつ改正されています。

 例えば、ご存じのとおり、年金制度改革などです。

 以前は、年金の受給開始年齢は60歳からでした。

 それが、段階的に引き上げられ、あと数年で、完全に65歳からになります。

 ここ最近目立つ議論としては、受給開始年齢のさらなる引き上げ(68歳開始・70歳開始)や繰り下げ受給の奨励です。

 そして、ついこの前まで議論されていた在職老齢年金の廃止ですが、これについては、年収要件を少し変更しただけで、廃止の議論はいったん収束しました。

 国民年金や厚生年金の保険料については、これまで少しずつ引き上げられ、厚生年金の保険料は引き上げがストップしている状況ですが、またいつ引き上げが始まるかわかりません。

 受給額については、この前、マクロ経済スライド方式により少し改善しましたと言っていましたが、傾向としては徐々に減っているのが現状です。

 他にも、確定拠出年金制度が創設され、利用者が増えていますが、ここ最近の議論としては、企業型の確定拠出型年金の拠出限度額を引き上げようとしています。

 まだまだあげると切りがありませんが、公的年金制度の傾向としては、受給開始年齢の引き上げ、保険料の引き上げ、受給額の引き下げをもって、制度の維持を図ろうとしています。

 社会保障制度は、健康保険制度や介護保険制度などがありますが、健康保険制度でいうと、75歳から移行する後期高齢者医療保険制度において、自己負担割合を2割に引き上げようという議論が顕在化しました。

 介護保険制度については、介護保険料の引き上げや、施設介護から在宅介護への転換が図られているのが現状です。

 このように、『1億総活躍社会』の実現には、高齢者の生活を賄うために制度の維持が図られています。

 

②消費税の増税

 日本は世界一の借金大国である!

 以前から、まことしやかにこのフレーズが喧伝されていますが、この流れの中で財政健全化の議論が積極的にされ、その結果として、今年の10月、消費税率が8%から10%に引き上げられました。

 一方で、法人税は引き下げられ、企業の内部留保が貯まっているといわれています。

 これについては、リーマンショック後に急激に積みあがっていることを考えると無理もありませんが、それ以上に企業は、超高齢化社会のピークにともなう人的コストの増加を見越し、備えているため、ここをいかに吐き出してもらうかという動きが、今後、多少は議論されるでしょう。

 消費税については、その使い道として、高齢者と子育て世帯、つまり、福祉が目的とのことですが、10%になってようやく幼児教育・保育の無償化が実現したことで、子育て世帯にとっては説得性が増しました。

 また、高齢者の医療や介護を支えるために使われるため、この点においても、5%から8%に引き上げられたときと比べると前進したのかもしれません。

 税制については、消費税だけでなく、所得税や証券税制なども含め、個々のご家庭で総合的に見ていく必要があるため何とも言えませんが、住宅ローン減税や確定拠出年金制度などを活用されている世帯ではどちらかというと減税傾向が強くなっていると思われます。

 特に知っておきたいことは、2020年から始まる「給与所得控除の引き下げ(-10万円)」と「基礎控除の引き上げ(+10万円)」ですが、これだけを見ると、会社員などのご家庭では、所得税は±0円で変わりはありません。

 一方で、すでに始まっている配偶者控除配偶者特別控除の収入基準の変更により、配偶者の年収が150万円までなら、それに対する所得税はかからなくなっているため、この点でも所得税は少なくなっています。

 これらの所得税制の改正は、つまるところ、消費税率が10%に引き上げられる、もしくは、引き上げられたことを想定した動きだったので、トータルで考えると、家計にとっては税負担増になってしまうのがつらいところです。

 結局のところ、『1億総活躍社会』の実現を図るためには、あの手この手で増税の方向に舵が切られています。

 

 超高齢化社会のピークに備えて、①社会保障制度を維持し、②増税を図る。

 これが『1億総活躍社会』の実現に向けた2本柱です。

 そして、それだけでは、そもそも『1億総活躍社会』の実現を図ることは難しいので、アベノミクスの旗印のもと経済政策に取り組んでいます。

アベノミクス

 アベノミクスは、第1次では、金融緩和・財政出動・成長戦略が掲げられ、第2次では、金融緩和と財政出動が積極的な経済政策と名を変え、子育て世帯の支援と介護離職者ゼロといった福祉政策に切り替わりました。

 これをもって、コアな経済政策としてのアベノミクスはとん挫し、結果、デフレからいまだに脱却することができていません。

 この原因の一つは、2016年から始まったマイナス金利政策ですが、これが意に反し長期化し、金融緩和を積極的に推進するはずだった銀行などの金融機関の体力を弱めてしまったことで、世の中(市中)に流れるお金の動きを歪なものにしてしまいました。

 また、膨大な借金があるということで、財政健全化を優先し、財政出動を控えるようになってしまったのも、経済が浮揚しない原因としてあげられています。

 本来、アベノミクスでは、景気が回復し、企業が潤い、従業員の所得が増えることで、消費を活性化させるといった経済の好循環を目指すものでした。

 この結果、税収が増え、社会保険料も増え、超高齢化社会に備えるための方法としても考えられていました。

 しかし、国を富ますエンジンの役割を担っている経済成長にブレーキをかけてしまっているため、思うように国民の所得が増えていません。

 こうなると、来るべき2040年の超高齢化社会のピークに備えることは程遠くなります。

 

 そこで出てきた妙案が「働き方改革」です。

働き方改革 

  正直、国の考えることはよくわかりません。

 実際に現場で起こっていることがどんなことかをつぶさに見ずに作戦を立て、実行してしまう様は、大日本帝国陸軍の末期のようにも思えます。

 働き方改革の理想形は、いわずもがな、「ワーク・ライフ・バランス」の実現です。

 このために、育休の制度を変え、親の介護が必要な人を支援し、残業を減らし、パワハラやセクハラなどのハラスメントには厳しくし、中途採用に向けた支援も行い、あげたら切りがないほどの政策を実施しています。

 今年は「時間外労働の上限規制」と「年次有給休暇の確実な取得」が施行され、そして2020年4月から「同一労働・同一賃金制度」が施行されるようになっています。

 働き方改革自体は必ずしも悪いものではありませんが、問題は、国民の抱く人生観や労働観が旧態依然としたまま改革を断行してしまっている点です。

 確かに、制度が始まって、価値観などは後から変わってくるという見方もあると思いますが、家族の形態や家計の状況も大きくかかわるため、スピードがあまりにも速いとついていけない人が続出するのは無理のないことだと思います。

 働き方改革については、ある程度定着するのに、もう10年ほど時間を要すると思いますが、その間、今の40代の人たちは50代に、今の30代は40代に、そして今の20代は30代にとそれぞれ繰り上がっていくため、時間の経過がない限り、価値観の変化もともなわないと思われます。

 経済的に考えると、働き方改革は、より多くの人に働いてもらうことで税収を伸ばし、社会保険料を納めてもらうことであるため、今掲げている『1億総活躍社会』の実現には必要不可欠なものになっています。

 

 その結果、今、そして、これから、何が起こるかというと「賃金の抑制」です。

⑤賃金の抑制

 これは、必ずしもすべての人に当てはまるというわけではありませんが、おおよそ、傾向としては、お勤め先の企業に大きく依存する形で、賃金が上がる会社と抑えられる会社とで二極化することになるでしょう。

 すでに、大企業では40代・50代を対象に早期退職勧奨を実施しています。

 これは、ふたを開けてみると、2020年の4月から始まる「同一労働・同一賃金制度」に備えての対応のように見えます。

 それ以前に、世代間の賃金カーブの見直しが図られ、就労年限が伸びていることで、以前に比べ、賃金カーブの傾斜が緩やかになっています。

 この意味は、賃金の増加ペースがゆっくりしたものになることですが、これをもって、家計面では、すでに若い世代を中心に人生設計を真剣に考えたいという意欲が高まっています。

 個人的には、「同一労働・同一賃金制度」が、その後の人生観や家族観、労働観を大きく変えていくと想像していますが、この意味を各人それぞれがしっかりと受け止めていかなければ、おそらく、単純にお金にしがみつき、お金に縛られ、お金に支配されやすい人生を歩むことになるだろうと考えています。

 

 2040年に訪れるだろう超高齢化社会のピークに備えて、この国は『1億総活躍社会』を実現しようとしています。

 しかし、この出どころは、根本的に超高齢化社会を経済的にいかに支えるかにあるため、もともと理想や理念がないだけの現実的な対応策の構築といった方法論に終始しているように映ります。

 令和元年という、日本にとって時代の節目に当たる最初の年に、これからの日本が、どのような価値観のもと進んでいくか、もう少し積極的な議論をしたうえで新たな時代を迎えたかった。

 最近、頭の中でぐるぐる回っていた答えは、結局、ここにあったような気がします。

 たぶん、考えるべきポイントは「日本人の幸福感」。

 日本人が培ってきた価値観を基礎に、どのような歴史を紡いできたかを再確認し、そのうえで理想を果敢に掲げていくことの必要性を感じています。

 その先に来るべき超高齢化社会への答えがあるんだと思います。

 経世済民。これが日本人にとって本来目指すべき経済のあり方です。

 しかし、この国で語られる経済は、単なるお金、マネーです。

 マネーをもって政策とし、マネーをもって国家の運営を帰結させるあり方は、果たして経済政策と呼べるのでしょうか。

 

 1970年以降生まれの私たちは、目の前にぶら下がっているマネーよりも、自分たちがどのように生きていけば幸福度が高まるかという答えを、おそらく、育ってきた時代背景の中でおぼろげにでも持っていると思います。

 しかし、具体的な答えを見つけるのが難しくなっている・・・。

 人生設計を構築する際は、ここに軸を置き、今後の社会動向をある程度想定し、自分や家族にとって何が大切なのかを胸に秘め、一歩一歩進んでいくことが必要なのかもしれません。

 

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