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金融庁の「老後の不足2,000万円」報告書。むしろ根が深い問題は「家計内に現れる歪な制度設計のズレ」にある!

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 ここ最近、物議を醸している金融庁の報告書。

 老後、95歳まで生きる場合、夫婦で約2,000万円の金融資産を取り崩す必要があるので、老後の生活資金は、資産運用などを通じ、自助努力で準備していきましょうってやつです。

 「なんなんだよ、それ!」って思った人はたくさんいると思います。

 だって、そんなこと、みんなわかっていますし、わざわざ改まって言われることでもないですし、じゃあ、何のための年金なんだよって思ってしまうのも当然だと思います。

 ましてや、消費税率を10%に引き上げるかどうかってタイミングで、こんなこと言われたら、テンションダダ下がりです。

 まぁ、そりゃ、みんな怒るわなって感じです。

 

 最近、妙に、この国が随分歪な構造になっているんじゃないかって感じるようになりました。

 これは、実務を通して感じたことなんですが、たぶんですよ?、リーマンショック後に所得格差が広がっているってよく言われていましたが、あの時よりもずっと所得格差が広がってきているんじゃないかって思っています。

 なんか、稼いでいる人は極端に稼いでいて、それ以外の一般的な人たちはむしろ収入がそれほど増えていない、もしくは減っているだろうという予測を立てています。

 この線引きって、年収ベースにすると、たぶん年収800万円ぐらいで、これを超えている人のご家庭では、国の制度の恩恵が受けやすく、それ以下のご家庭ではあまり恩恵を受けていないような気がしています。

 たぶんね。

 

 先ほどの金融庁の報告書ですが、あの趣旨は、簡単にいうと「老後の生活資金は、ある程度、自助努力で賄ってください」ということですよね。

 そのための制度としてNISAやiDeCoを活用しましょうってわけですが、この制度は、基本的に年収が多い人の方が得をする制度です。

 そもそも、年収が多い人の家計では、当たり前ですが、お金は余りやすい傾向があります。

 その余ったお金を優遇税制を活用しながら運用できるので、さらに家計の資金効率は高まりやすくなります。

 

 金融庁の報告書の前提にあるのは、生産年齢人口の減少です。

 つまり、15歳から64歳までの人たちが、今後、減っていくだろうという人口動態予測にもとづいています。

 これは大変だということで、国は「生産性の向上」を掲げ、様々な政策支援を行っていますが、この持っていき先に偏りが生じているため、歪な社会現象が構造的に表れるようになっているように感じています。

 

 家計面から生産性向上について見ていきましょう。

 家計を見る際は「家計簿」と「資産表」の両面を観察していきますが、家計簿には「収入」と「支出」、そして、収入から支出を差し引いた「純利益」があり、資産表には「資産」と「負債」、そして、資産から負債を差し引いた「純資産」があります。

 生産性は、数式に直すと、次のようになります。

生産性(%)=産出量/投入量×100

 この数式を家計に落とし込んで考えていくと、たとえば、家計簿内の生産性を上げていく場合、①収入を増やす、②支出を減らす、を通じ、純利益(収入ー支出)を増やす、つまり、余るお金を増やすことが、家計簿内での生産性の向上になります。

 一方、資産表内での生産性向上は、③資産を増やす、④負債を減らす、を通じ、純資産(資産ー負債)が増えることを意味します。

 

 そこで、生産性向上の観点から「収入を増やす」を見ていくと、国は兼業や副業、起業などをしていきましょう、キャリア形成をしていきましょう、効率よく働きましょうと言っています。

 一方、「支出を減らす」は、単純に無駄遣いをなくす、家計のやりくりをするといった工夫です。

 この結果、純利益が増え、家計簿内における生産性は改善していくことになります。

家計簿内の生産性(%)=収入/支出×100

 国の想定では、こうすることで、家計簿内における生産性は改善していくはずなんですが、実際、起こっていることは、思ったよりも生産性が伸びていないことです。

 まず、収入面ですが、そもそも、多くのご家庭が共働きで、特に子育て世帯では、兼業や副業、起業などといった働き方が言うほど簡単ではなく、また、働き方改革により残業時間が減り、収入の減少につながってしまっているため、これらが家計簿内の生産性の伸びを抑えている要因になっている可能性と考えられます。

 確かに最低賃金が上がってはいますが、一方で、このようなカウンターパンチがあるため、生産性が想定しているように伸びないというのが現状なのではないでしょうか。

 支出面で見ると、所得税や住民税などの税金と社会保険料が長年上がり続けてきたことと、特に消費税の増税が支出を増加させていることにより、この点でも、家計簿内の生産性の伸びが抑制されやすくなっていることが考えられます。

 実務を通じて見ている傾向は、おおよそ、このような家計簿内での生産性の鈍さなんですが、一方で、この構造から脱却できているご家庭も、実をいうと、あります。

 それが、年収が多い世帯です。

 厳密にいくらというのは難しいですが、経験則で考えると、この年収ラインが年収800万円ぐらいなんじゃないかなと予想しています。

 この金額を超えている人は、一般的な人と比べて、稼げるための何らかのプレミアムが付いているんですね。

 たとえば、大企業の管理職とか、専門性が高い職とか。

 このような世帯と一般的なご家庭の間の制度面での大きな違いは、おそらく消費税の負担額に色濃く表れているような気がします。

 確かに、所得が多いご家庭では、所得税や住民税、社会保険料などを多く納めています。

 しかし、比較を一般的なご家庭と比べているため、相対的な比率でいうと、ある程度公平性は保たれています。

 一方、消費税の場合、その逆進性により収入の多いご家庭の方が負担率が下がっていくため、この点で収入の多い世帯の方が家計簿における生産性は必然的に高くなる傾向があるといえるでしょう。

 

 視点を変えて、資産表内での生産性について考えていきましょう。

資産表内の生産性(%)=資産/負債×100

 資産表内の生産性はこのような数式で表すことができますが、金融庁の報告書でいうところの「老後のお金は自助努力で」の意味は、「家計簿内で余ったお金を資産に移し、効率的に運用することで資産表内の生産性を高めていきましょう」ということになります。

 これを後押しするために、NISAやiDeCoなどの優遇税制を設けているわけですが、先ほど述べた通り、収入が多いご家庭の方が余るお金も多くなるため、結果として運用する資産も多くなります。

 こちらも、国の制度としては、一般的なご家庭よりも年収の多いご家庭の方が投資機会が増えやすくなることから、より有利に働くことになります。

 一方、負債面ですが、たとえば、マイホームの住宅ローンを組まれている方は多くいると思います。

 資産表内の生産性を軸に考えた場合、住宅ローンなどの金利が金融資産などの金利や利回りを上回ってしまっていると、必然的に生産性は下がります。

 逆に、負債金利<資産金利の場合は生産性は上がります。

 これを収入の多いご家庭と一般的なご家庭とで比較すると、仮に住宅ローンの金利が同じ場合、資産が多ければ多いほどリスク許容度が高まるため、収入の多いご家庭の方が生産性は高くなりやすい傾向があるといえるでしょう。

 

 今、この国は、おそらく、一定の範囲内の人たちに比較的有利な制度設計のもと運営されている傾向があるように映ります。

 資本主義なので、確かにそれはそれでいいかもしれませんが、同時に民主主義でもあるため、この大きく開いてしまっている格差というよりも、制度設計上の偏りをもう少し是正していかなければ、最終的に、おそらくですが、たとえば、年収800万円ぐらいを分岐点として、それを超える人たちは将来、金銭的な安全地帯に入ることができ、それ以下の人たちは慢性的に余裕のない暮らしの沼にはまったままになる歪な社会構造が定着化していくような気がします。

 

 生産年齢人口が減っていく。

 だから、国民的に生産性を上げていこう。

 効率的な社会づくり!

 働き方を見直そう!

 などなど、ゴールに向かうための方法論としては確かに的を外していないような気もしますが、おそらく、思うように進まない理由は、現状の分析を目の前で起こっている現象をもとに行っていないからなんだと思います。

 良くも悪しくも何らかの力が働いて、現状分析に一定のバイアスがかかっているのかもしれませんが、このままいくと、たぶん、相当マズいと、ご相談などを通じて結構思っています。

 単なる杞憂ならいいんですが、そうならないことを願います。

 

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