お金を貯める「4つの原則」
最近、30代前半のご夫婦からのご相談が重なっていますが、共通することは「自分たちの老後の暮らしまで見通したうえで、今後の生活設計を考えてみたい」といった内容です。
人生のゴールから逆算して、これから何をどうすべきか。
老後が不透明だからこそ、人生を見える化し慎重に行動していきたいという気持ちの表れなんだと思います。
30代前半の世代的な特徴は、就職難が極まった時代に社会に出たことです。
会社に入るとしばらくしてブラック企業という言葉が注目され、企業の労働環境や労働条件に対する問題がそこかしこで表面化してきました。
人手不足により、今でこそ、ようやく新入社員の給料が少し上がってきていますが、当時はリーマンショック後ということもあり、賃金は低めに設定されていました。
人の行動パターンは、往々にして若いときにどんな世の中だったのかに影響を受ける傾向があります。
雰囲気なんでしょうね。
老後を心配する傾向、貯蓄への意識が高い傾向、無理をしたくないという傾向。
自分たちよりも上の世代の人たちの様子を見ながら自分たちの将来をおぼろげに感じ、同世代の周りの様子を見ながらどのように行動すべきかを模索する・・・。
ファイナンシャル・プランナー(FP)事務所としては、十分お話をうかがい、心配な点を把握し、人生設計(ライフプラン)のシミュレーションにより、見える化することで、どのように課題を克服していけばいいのかを伝えていくことになります。
その中で、お金を貯めることについていろいろな角度でお話させていただきますが、お金を貯める際は通常、このような点に留意します。
(1)“何のために”貯めるのか:目的
(2)“いつまでに”貯めるのか:期間
(3)“いくら”貯めるのか:金額
(4)“どのように”貯めるのか:方法
まず、(1)「何のために貯めるのか」から見ていきましょう。
先日お会いした30代前半の方の場合、子どもが生れ、今住んでいるマンションが手狭になってくることを見越し、マイホームを買うことにしたというライフステージのもとでのご依頼です。
マイホーム購入後、どのようにお金を貯めていくのかというご相談ですが、
A.教育・進学資金の準備
B.老後の生活資金の準備
C.退職後の住替え資金の準備
の3つがお金を貯める目的になっています。
一般的には、お金を貯める目的には、
①結婚資金の準備
②マイホーム購入資金の準備
③教育・進学資金の準備
④老後の生活資金の準備
⑤住替え・リフォーム資金の準備
⑥介護資金の準備
⑦葬儀・墓石費用の準備
⑧財産移転のための準備
その他、起業資金の準備
などがあります。
考えればそれなりの貯蓄目的が出てくるはずですが、傾向としては、③「教育・進学資金の準備」と④「老後の生活資金の準備」が貯蓄目的の中心になっているようです。
これはひとつの社会不安の表れなのかもしれませんが、このご家庭の場合、「教育・進学資金の準備」と「老後の生活資金の準備」、「住替え資金の準備」の3つを貯蓄の目的に定めました。
お金を貯める目的を決めた後は、(2)「いつまでに貯めるのか」を考えていきます。
これは、目的に合わせた貯蓄期間を決めるという意味です。
A.教育・進学資金の準備 ⇒ 15年~22年の間
B.老後の生活資金の準備 ⇒ 30年~35年の間
C.住替え資金の準備 ⇒ 30年~35年の間
それぞれの目的ごとに貯蓄期間の目安を決めていきます。
いずれも貯蓄期間は長めです。
貯蓄の期間を決めるのはなぜかというと、
お金を効率的に貯めるため
です。
目的のはっきり決まっているお金は、原則的にリスク(不確実なこと)を取ることが難しくなります。
しかし、リスクを取らなければ、このご時世、投資効率が非常に悪くなります。
このような理由から、期間の長い貯蓄では「資産の分散」を図ります。
a.安全資産にいくら回し
b.低リスク資産にいくら回し
c.中リスク資産にいくら回すか
絶対にしてはいけないことは、高リスク資産にお金を配分することです。
資産配分の種類については、(4)「どのように貯めるのか」で言及しますので、次の(3)「いくら貯めるのか」に話を移します。
A.教育・進学資金の準備 ⇒ 大学・留学・大学院に向けての費用
B.老後の生活資金の準備 ⇒ (公的年金+退職金+貯蓄額)-生活資金
C.住替え資金の準備 ⇒ (住替え費用)-(自宅の売却額)
前述した30代前半のご家庭を例にすると、教育・進学資金はお子さんの大学への進学を想定して考えます。
なぜならば、
①幼稚園については入園までの期間が短すぎるため、資金準備というよりも通常の貯蓄の範囲内で用立てていくことになる。
②小学校・中学校は義務教育であるため授業料などは無料である。
③高校については所得水準に応じて無償化や補助がある。
などの理由から、すべて私立を前提に考えなければ、教育・進学資金の準備の目的は必然的に「大学・留学・大学院への進学」になるからです。
一般的に学資保険が有名ですが、目安としてはおおよそ200万円台~300万円台で大学進学資金を貯めていくような設定になっています。
これは私大の文系や国公立大学の入学金と授業料を前提にした金額ですので、私大の理系や医学・歯学部などに進学する場合、留学や大学院への進学を想定する場合などは足りなくなるので十分注意しましょう。
老後の生活資金の準備では、公的年金や企業年金、私的年金などの「年金額」と「退職金」、それまで貯まると思われる「貯蓄累計額」の合計から、毎日の「生活費」を差し引き、必要な場合は再就職も考慮しながら、老後、月々いくら足りなくなるのかを計算し総額を求めます。
たとえば、毎月5万円ほど生活費が足りないという結論になった場合、85歳まで生きると仮定すると、5万円×12ヶ月×20年(85歳-65歳)=1,200万円が老後の生活のために最低限貯めておく必要のあるお金だとわかります。
退職後にマイホームを住替える場合は、これから住む土地・建物の資産額が、完全リタイア時点(ここでは65歳)でいくらぐらいになっているのかをあらかじめ想定しておきます。
このご相談者様の場合、ふるさとへの移住を考えているので、マイホームを売却した金額から想定される移住先の住替えにかかる費用を差し引き、足りない部分を貯めていくことになります。
移住ではなく、今住んでいる土地で建物を建て替える場合は、住替え費用はそのまま建て替え費用になるのでご注意ください。
いくら貯めるのかの目標金額を設定したら、次は(4)「どのように貯めるのか」です。
これは、貯める目的、貯める期間、貯める金額すべてに応じ変わってきます。
たとえばお子さんの教育・進学資金。
大学への進学を想定し、子どもが大学に進学する18年後までに500万円を貯めるとした場合、お金の貯め方にはどのようなものがあるでしょうか。
〔安全資産〕
①期間の長めの定期預金
②一般財形貯蓄制度
③学資保険
④貯蓄性終身保険(死亡保険)
⑤教育資金の贈与
〔低リスク資産〕
②MMF・MRF
〔中リスク資産〕
①外貨預金
②国内の株式型・債券型投資信託
④外貨建終身保険(死亡保険)
⑤海外の債券型投資信託
⑥NISA(少額投資非課税制度)
〔その他〕
①奨学金制度
②教育ローン
などの方法があります。
ポイントは、資産をひとつにまとめず、貯蓄の期間が長いことを最大限に活用し、資産の分散を図り、税制の優遇を活かすことです。
貯蓄期間が長いことのメリットは「複利計算により貯蓄効率が高まること」です。
複利計算とは、当初の元本+利息が2年目の元本になり、2年目の元本+利息が3年目の元本になるという形で雪だるま式にお金が貯まって仕組みです。
そして、資産を分散させることの意味は、よくありがちな預金への偏りによる、ほぼゼロに近い利率を避ける目的があります。
ずっとひたすら何の工夫もせず、お金を銀行に預けていてもお金はほぼ貯まりません。
100万円を普通預金に預けていても、大手銀行で提示されている現行の金利は年率0.001%。
つまり、1年後の利息は10円です。
これを避けるために、資産を「安全資産」、「低リスク資産」、「中リスク資産」の3つに分けていきます。
ここで注意したいのは、目的のあるお金なので高リスク資産には振り分けないことです。
そして最後に、税制の優遇効果を活かすことは忘れないようにしましょう。
最近では、老後のお金を貯めることを目的に確定拠出年金制度が比較的当たり前になってきています(教育資金の準備には使えません)。
また、NISA(少額投資非課税制度)も注目されるようになり、資産形成を国が税制面でバックアップする体制が整っています。
さらに資金援助の面でも家計にやさしい税制が設けられています。
祖父母からの教育資金を贈与してもらった場合、1500万円までの金額に対し、贈与税が非課税になります。
会社員の場合、社内に財形制度がある会社が多いと思いますが、財形年金・財形住宅・一般財形と3つの目的に応じた積立制度となっていますので、こちらも目的に合わせ上手に活用していくようにしましょう。
ちなみに教育資金の準備は一般財形制度で行うことになりますが、残念ながら税の優遇は受けられません。
ただ、銀行の普通預金に預けておくよりは金利が少し高いので、振り分ける安全資産としては有効に働くでしょう。
このように、私たち庶民の貯蓄をサポートしてくれる公的な制度はいくつかあります。
優遇税制を活用し効率的な貯蓄を心掛けるようにしてください。
最近、金融庁による金融業界に対する改革が行われています。
その中に「金銭教育」や「投資教育」の項目がありますが、金融庁ももうわかってるんですね。
国民に金銭教育を行わないと老後の生活に支障が出ることを。
金銭教育は、公の機関では日本FP協会はもちろん、日銀などでも行っています。
私たちのようなFP事務所は、実務面で顧客の方々と対面させていただいたときに、相談業務を通じて金銭教育を行っているようなものですが、やはり金銭教育の不十分さを感じます。
今回見てきた「お金の貯め方」ひとつとっても、人生の中で知っておく必要のあることはたくさんあります。
どうしようと迷ったら、こうしたらいいという「教えてもらえるツール」をいくつか持っているといいかもしれません。
本で学んでもいいし、セミナーなどに参加するのもありかと思います。
身近な生活の場面で教えてもらえるツールを少しずつ増やしていくようにしましょう。
ライフプランやマネープランのご質問・ご相談は、