空き家にしないために。野村総研のレポートから見る「マイホームの出口戦略」。
2025年問題。
戦後のベビーブームで産まれた団塊の世代の人たちがすべて後期高齢者(75歳以上)になっていくことで、医療や介護、年金などにかかる社会保障費が膨れ上がっていくと言われています。
これ以降、後期高齢者の総人口に占める割合は18.0%を超えると予測されていますが、前期高齢者(65歳以上)の人たちも含めると、2025年、高齢者の総数は総人口の30.0%を超えるそうです。
2025年というと、私たち1970年以降生まれの人たちにとっては、現在45歳の人が53歳、40歳の人は48歳、35歳は43歳、30歳は38歳、25歳は33歳、20歳は28歳・・・になっている年です。
ちょうど1970年に生まれた人は現在47歳なので55歳ということになります。
こう考えると、子育てがすでに終わり、お子さんが結婚し、お孫さんが産まれ、1970年以降生まれの人たちの中でも、おじいちゃん、おばあちゃんと呼ばれる人が少しずつ増えていく頃合いなのかもしれません。
そこに高齢者が総人口の3割以上・・・。
自分が住んでいる街がどのように様変わりするのか、なかなか実感がわきませんが、先日、株式会社野村総合研究所(以下、野村総研)がこんなシミュレーションを発表しました。
2033年の空き家数は2,166万戸
空き家率は30.4%に
下のグラフは、上記のレポートに掲載されている「総住宅数・空き家数・空き家率の実績と予測結果」ですが、2018年の空き家率の予測値が17.0%であるのに対し、2033年には30.4%になると指摘しています。
2025年、高齢者の割合が総人口の30.0%を超える。
そしてさらに8年後の2033年、総住宅数に占める空き家率も30.0%を超える、との野村総研による試算。
1970年以降生まれの私たちはまだ高齢者にはなっていませんが、その上の世代はほとんど前期高齢者(65歳以上)、または後期高齢者(75歳以上)になっているという時代です。
野村総研が試算した別のデータを見てみましょう。
〔新設住宅着工戸数の実績と予測結果(利用関係別)〕
このグラフでは、2030年度の「貸家」、「持家」、「分譲」の新設着工戸数について予測されています。
2017年の各見込み数と比べると、いずれも大幅に減少していることがわかります。
総住宅数が多く、中でも空き家数が増加している環境にあるので、その頃の住宅市場は日本史上例を見ない圧倒的な供給過剰状態にあり、新たに住宅を増やしても購買数が少ないため必然的に新設着工戸数が抑えられてしまうということなのでしょう。
一方、住宅のリフォームについては横ばいでそれほど変わらないと予測しています。
〔リフォーム市場規模(広義・狭義)の実績と予測結果〕
このグラフは、リフォーム市場の規模について表していますが、2017年の見込みと比べても、2030年はそれほど変化がありません。
住宅の老朽化に対しては定期的なメンテナンスが必要になってくるので、超高齢化社会の中では比較的安定した市場と言えます。
このことは別の見方をすると、新築の住宅市場よりも既存の住宅市場(中古住宅市場)の相対的な価値が高まることを意味しています。
今回、これらのデータを通して伝えたいことは、
ライフプラン(人生設計)を考えるうえで、
これからは、後期高齢者(75歳以上)以降のライフイベントについても、
しっかりと想定しておく必要がある
ということです。
つまり、結婚後のライフプラン(人生設計)を従来の「子育て期」と「リタイア期(老後)の2つだけで捉えるのではなく、3つのライフステージ、
①子育て期
②退職準備期(子ども独立後)~前期高齢期(65歳まで)
③後期高齢期(75歳以降)
に分け、それぞれの時期に合った金銭的な手当て(ファイナンシャル・プラニング)を施していくことが求められてくると思われます。
それでは、具体的なファイナンシャル・プラニングとはどのようなものでしょうか。
〔従来のファイナンシャル・プラニングのメインテーマ〕
①教育・進学資金
②住宅ローン
③老後の生活資金
④保険
これまでは、この4つが「人生の4大支出」とされ、それぞれについて工夫することにファイナンシャル・プラニングの軸足が置かれていました。
しかし、これからは次のような点が加えられ、ひょっとしたら「人生の5大支出」と言われるようになるのかもしれません。
〔今後のファイナンシャル・プラニングのメインテーマ〕
①教育・進学資金
②住宅ローン
③老後の生活資金
④保険
⑤老後の住まいへの対応
「老後の住まいへの対応」とは、
空き家にさせない対策づくり
です。
空き家になってしまうと、困ったことが起こります。
①空き巣や火事、地震など犯罪・災害面でのリスクの拡大。
②相続人(所有権者)の維持・管理費用などの経済的な負担増。
③放置状態の空き家に対する行政上の問題。
現在、すでに空き家になった土地・建物に対して、国や自治体などがどのように対処すべきか、枠組みづくりをしています。
空き家バンクはその代表例ですが、空き家になってからでは時すでに遅しで、特に空き家を引き継いだ遺族にとっては、ファイナンシャル・プラニング上、さまざまな経済的な負担が重くのしかかってきます。
この経済的な負担について、事前にどのように対応すべきかを考えることが、
⑤老後の住まいへの対応
=空き家にさせない対策づくり
です。
それでは、空き家にならないようにするには、ファイナンシャル・プラニング上、どのように対処することになるのでしょうか。
〔マイホーム購入時に出口戦略を同時に考えておく〕
マイホームを買うときは、いろいろと家族の夢が膨らむものです。
しかし、時を経るにつれ、子どもが巣立ち、老後は夫婦ふたりの生活になります。
孫ができ、子どもが実家に戻らない場合、あくせく働いて住宅ローンを完済し、本当の意味で自分の財産になった我が家を、今度はどのように処分すべきかを考えていくことになります。
方向性は4つです。
①取り壊す
②売却する
③誰かに貸す
④何かのために活用する
少し話を前に戻します。
2033年、総住宅数の30.0%超が空き家になるという野村総研の予測。
この時代はすでに住宅市場が供給過剰となっていることから、特に都市部以外では不動産価格の下落、もしくは低迷が予測されます。
④何かのために活用する?
一般的に想定されているのは、空き家をリノベーションし、何らかの活動の場として有効活用するということですが、郊外型の住宅地ではその利用頻度に限りがあります。
③誰かに貸す?
この一般的な想定は、リフォームやリノベーション後に賃貸物件として所有し、不動産所得を得るということですが、こちらも郊外型の住宅地では借り手が少なくなっているため、おそらく空室率が目立つようになるでしょう。
このように考えると、現実的には、①取り壊す、②売却するという選択を取る方が多くなるかと思います。
ポイントは、
相続前までに対策を講じること
です。
よく相続の話になると、「ウチは財産がないから相続なんて関係ないよ」という方がいらっしゃいますが、相続は、誰しもいずれ亡くなることから、相続税がかかる、かからないにかかわらず、誰にでも発生するライフイベントです。
つまり、相続は単なる「所有財産の移転」に過ぎないため、お子さんが実家に戻らない場合、事前に対策を講じておかないと、死亡後は通常お子さんに土地・建物が相続され、同時に誰も住んでいない空き家になります。
こうなると、お子さんにとっては、住んでないのに「維持・管理費用などの経済的な負担」がかかり、お子さんのその後のライフプラン(生活設計)に狂いが生じる可能性が出てきます。
せっかく受け継いだ親からの財産なのに、もらったらもらったでお金がかかる・・・。
このような困ったことにならないための事前の対策が、本当の意味での「空き家対策」です。
それでは、具体的にはどのように考えていけばいいのでしょうか。
①取り壊す
空き家問題が現実的に解決しにくい原因のひとつに「空き家を取り壊して更地にすると、固定資産税が高くなる」という問題があります。
しかし、取り壊さずに誰も住んでいない状態で残し続けると、防犯・防災面でのリスクの増加、継続的なメンテナンス費用の発生、行政上の問題が同時に発生します。
総合的に考えて、更地にしてでも取り壊す方が得策なのは自明の理です。
このようなことから、相続発生後は、速やかに取り壊すようお子さんに頼んでおきましょう。
頼むと言っても、お子さんにとっては取り壊し費用がかかります。
また、取り壊した後の土地を売ることができなければ固定資産税がかかります。
このふたつの費用(取り壊し費用と固定資産税)について、お子さんに迷惑がかからないよう生前にどのように準備しておくのか、これを考えておくことが、取り壊す場合のファイナンシャル・プラニングにおける事前対応策です。
②売却する
これについては、郊外型の住宅地では難しいかもしれませんが、中古住宅市場の流通が整ってくる可能性があるので、リフォームやリノベーションを施した後、不動産会社を通じ売却先を探してもらうようにお子さんに頼んでおきましょう。
金銭的には、お子さんにリフォームやリノベーション費用を負担させなくてすむようにあらかじめ準備しておくことがポイントになります。
このふたつに共通する点は、
お子さんに経済的な負担をかけずにマイホームを手放すには、前もっていくらぐらいの資金を準備しておく必要があるのか
を考えておくことです。
これが「超高齢化社会における最も可能性の高いと思われるマイホームの出口戦略」で、1970年以降生まれの私たちにとっては、おそらくファイナンシャル・プラニング上の「終活」の中でメインテーマになってくると考えています。
今回の野村総研のレポートは実務的に非常に参考になりました。
超高齢化社会はご老人をみんなで助け合うことで成り立つ社会なので、必然的に子育て世代にとって負担が多くなっていきます。
住まいについても同じことが言え、だからこそ国は長期優良住宅を奨励し、また中古住宅市場の整備を急ぐことで、一度建てた住宅の利用サイクルを伸ばそうとしているのかもしれません。
その結果、不動産価格が下がり、土地・建物がより買いやすくなるのなら、1970年以降生まれの私たちにとって、今進めている国の住宅政策が、今後予測される家計収支の減少と貯蓄の難しさを緩和するためのひとつの良薬になるような気がします。
すでにマイホームをお持ちの方も、これからマイホームを買おうという方も、いずれ来るだろう未来に向けて「マイホームの出口戦略」は考えておいて損はないと思います。