2017年は、いつもより多めにご主人の「給与明細」を見てみよう!
子育て世帯にとって、増税なのか、減税なのか。
配偶者控除をめぐる議論にようやく終止符が打たれようとしています。
「配偶者控除」とは、生計が同じ妻がいる場合、夫(世帯主)の年収から差し引かれる“38万円”の所得控除のことです。
以前から、“時代に合ってない”、“女性の活躍を妨げている”、という声があるようですが、夫が奥さんを養っているという意味で、税制上の扶養手当のようなものと位置づけられています。
この制度を活用すると、ご主人が支払う所得税が軽減されます。
これについて、よく「103万円の壁」が話題になります。
妻の年収が103万円以下でないと、夫が配偶者控除の適用を受けられなくなるので、妻が103万円までしか働こうとしないという「妻の年収の壁」。
別の表現をすると、奥さま方は「年収103万円までなら夫の所得税が軽くなるから、年間103万円までは働こう」という「内助の功」とも言えます。
制度は同じなのに、視点を変えると見え方が違ってきます。
つまり、国会などで議論されている「女性の活躍」と「配偶者控除」については、本質的には因果関係がないってことなんでしょうね。
配偶者控除を簡単にまとめると、次のようになります。
〔妻の年収が103万円以下のときに、夫に配偶者控除が適用される〕
(夫)基礎控除:38万円 給与所得控除:65万円 +配偶者控除:38万円
(妻)年収:103万円以下
※現行では、妻の年収が130万円を超えると、夫には配偶者控除ではなく、配偶者特別控除が適用され、段階的に縮小されていき、妻の年収が141万円までは控除を受けることができます。
さて、この配偶者控除ですが、報道によると、結局、廃止せずに拡大する方向で落ち着きそうです。
具体的には、妻の年収要件を「150万円以下」にするということなので、次のようになります。
〔妻の年収が150万円以下のときに、夫に配偶者控除が適用される〕
(夫)基礎控除:38万円 給与所得控除:65万円 +配偶者控除:38万円
(妻)年収:150万円以下
妻の年収要件が拡大されたので、これまで妻の年収が「103万円超150万円以下」の世帯では所得税の減税です。
※現行では、妻の年収が103万円超141万円以下までは、妻の年収に応じ段階的に夫の年収から「配偶者特別控除」が差し引かれているので、妻の年収が「103万円超141万円以下」の世帯では、ある程度の減税となります。
※また、妻の年収が「141万円超150万円以下」の世帯の場合、現行では、配偶者特別控除の適用すら受けられていないので、配偶者控除の適用で減税の恩恵を受けやすいでしょう。
※さらに、新制度のもとでの配偶者特別控除の妻の年収要件が「150万円超201万円以下」に拡大されることから、妻の年収が141万円超150万円以下の世帯と同様、これまで配偶者特別控除すら受けられなかった、妻の年収「150万円超201万円以下」の世帯でも減税効果は大きいと言えます。
国の言いたいことは、こういうことですよね。
「年収103万円以下で働いていた奥さまは、奥さまの年収が150万円まではご主人に配偶者控除が適用されますので、もっといっぱい働けますよ~」
これが女性の活躍なのかっ。
これまで年収103万円以下で働いていた奥さまが150万円まで働くと、家計的にはこんな感じになります。
〔年収103万円以下で働いていた妻が年収150万円まで働いた場合の家計所得の変化〕
※夫:会社員(年収400万円)、妻:パート、子ども2人の一般的なご家庭
(夫)基礎控除:38万円 給与所得控除:65万円 +配偶者控除:38万円
(夫)所得税軽減効果:38万円×10% =3万8,000円
(妻)基礎控除:38万円 給与所得控除:65万円 =103万円
(妻)年収:150万円以下
(妻)年間所得:150万円-103万円 =47万円
(妻)所得税:47万円×5% =2万3,500円
〈家計所得の変化〉
夫の年収から配偶者控除の38万円が引かれるも、妻の年間所得が47万円増えるので、家計全体でみると、上記のようなご家庭の場合、所得税の減税効果は年間1万4,500円になります。
ここまでは「所得税」のお話です。
「住民税」については、妻の年収が93万円を超えると、自治体によって違いますが、均等割が適用され、また、妻の年収が100万円を超えると所得割のもと、住民税を納める必要があります。
住民税については、「93万円の壁」、「100万円の壁」と壁が低いので、働けば仕様がないですが、問題は「社会保険料」です。
妻の年収が130万円を超えると、妻は、夫の扶養を抜けて健康保険や厚生年金保険などの社会保険制度に加入する必要があります(130万円の壁)。
また、今年から始まった新制度ですが、妻が従業員数501人以上の企業で働く場合、年収が106万円を超えると、130万円の壁同様、社会保険制度に加入することになります(106万円の壁)。
さて、この「社会保険料」を含めて考えると、ご家庭の手取り年収はどのようになるのでしょうか。
2017年度税制改正で「~~~万円の壁」の見方が変わります。
①「93万円の壁」
妻の年収が93万円を超えると、「住民税の均等割」が発生(自治体によって異なる)。
②「100万円の壁」
妻の年収が100万円を超えると、「住民税の所得割」が発生。
③「106万円の壁」
妻が従業員数501人以上の企業で働く場合、妻の年収が106万円を超えると、社会保険制度に加入する必要があり、「住民税」はもとより、「社会保険料」を支払う義務が生じる。
④「130万円の壁」
妻が従業員数500人以下の企業で働く場合、妻の年収が130万円を超えると、「住民税」はもとより、「社会保険料」を支払う義務が生じる。
⑤「150万円の壁」
妻の年収が150万円を超えると、「住民税」・「社会保険料」はもとより、夫に適用されていた「配偶者控除」がなくなるため、所得税が増える。
(番外編)
「201万円の壁」
妻の年収が201万円を超えると、「住民税」・「社会保険料」はもとより、夫に適用されていた「配偶者特別控除」がなくなるため、所得税が増える。
こう見ていくと、税制改正後は、事実上、奥さま方にとっては「130万円の壁」が働き方の分岐点になってくるかと思います。
千葉県の最低賃金が、今年の10月から時給842円に引き上げられていますが、たとえば、時給850円で1日8時間、週3日労働の場合、年収は97万9,200円、時給900円では、1日8時間、週3日で、年収は103万6,800円になります。
1日何時間、週何日働いた場合、年収がいくらになるのか、今まで以上に考える奥さま方が増えるのではないでしょうか。
この一覧表を見ると、年収150万円以上働こうというのは、子育て世帯の奥さま方にとっては、時間的に難しいかと思われます。
最後に、今回の税制改正で、もうひとつ重要なポイントがあります。
「家族手当の制度を変更する企業が増える」
家族手当は、国の制度ではなく、企業が独自に設けている福利厚生制度です。
ご主人の給与明細にお給料と一緒に記載されているケースが多いですが、一般的なものは「配偶者手当」と「子ども手当」のふたつです。
現在、多くの企業では、妻の年収が103万円以下の場合に支給されていますが、これからは企業で働く女性が増える代わりに、子育てに対する支援を手厚くしていこうということで、配偶者控除は止め、子ども手当を増額する企業が増えます。
「配偶者手当」⇒ 廃止
「子ども手当」⇒ 増額
たとえば、厚生労働省の「平成22年賃金事情等総合調査(賃金事情調査)」によると、配偶者手当の平均額は月額1万7,700円、子ども手当については、第1子に対しては月額8,300円、第2子の場合は月額7,000円、第3子は月額6,500円となっています。
このうち、配偶者手当が廃止され、子ども手当が増額されると、収入にも変化が生じます。
プラスになるのか、マイナスになるのかは企業ごとに違うでしょうが、前述した「所得税」と「住民税」、そして「社会保険料」と併せ、全体的に家計がどのように変化するのか、しばらくチェックすることが必要になってくるでしょう。
2017年は、ご主人の給与明細をいつもより多めにチェックし、ご家庭で収入が増えたのか、減ったのか、確認してみるようにしましょう。